2016年越しの準備で忙しい12/29に、あまり話題にもならずに、ひっそりと報道されたのが、「AI導入、34人削減へ」の記事です。
<富国生命>AI導入、34人削減へ 保険査定を代替
出典:毎日新聞 2016/12/29
富国生命保険が、人工知能(AI)を活用した業務効率化で、医療保険などの給付金を査定する部署の人員を3割近く削減する。AI活用による具体的な人員削減計画が明らかになるのは珍しい。将来的に、人の仕事がAIに置き換えられるケースが増えると指摘されており、今回の取り組みも論議を呼びそうだ。
記事によれば、富国生命保険が導入するのが 日本IBMのAI「ワトソン」を使ったシステムで、医師の診断書などから入院給付金支払いなどに必要な情報(病歴や入院期間、手術名等)をAIで読み取り、給付金額を算出したり、契約内容に照らし合わせて支払い対象となる特約を見つけ出すとのことを代替するとのことです。
富国生命保険は、このAI「ワトソン」導入で、現在の131人の職員から34人を削減する予定だというのです。
<富国生命>AI導入、34人削減へ 保険査定を代替
出典:毎日新聞 2016/12/29
同社の査定関連部署には15年3月末時点で131人の職員が所属する。支払いの最終判断などには従来通り専門スタッフが関わるが、診断書の読み込みなどの事務作業はAIで効率化できる。同社は既に、導入を見越した業務見直しで段階的な人員削減に着手。5年程度の有期で雇用している職員47人を中心に、17年3月末までに契約満了を迎える人の後任を補充しないことなどで、最終的に計34人を削減する。
この報道で、注目すべき点は次の通りです。
A. 高度な知識と経験を要する仕事が対象となっている
B. AI導入で具体的な人員削減数が明確になっている
C. 同様の技術が同業他社への波及が具体化している
それでは、詳細に見ていきましょう。
A. 高度な知識と経験を要する仕事が対象となっている
保険金支払/査定業務とはどんなものなのでしょうか?
この業務には、保険と医療に関する高い専門知識と豊富な経験が必要とされ、一人前になるには10年ほどの経験が必要という高度な仕事なのです。
出典 日本経済新聞 日本初!保険金支払審査への導入で見えてきたIBM Watsonの実力
(かんぽ生命によれば)保険約款を熟知していることはもちろんだが、疾病や必要な入院期間、手術の術式や処置の仕方などの医学的な知識や、支払可否に関する法律的な知見などに精通し、膨大な経験の蓄積とそれを基にした判断能力が求められる。また、医師によって診断書の書き方が違い、書かれている断片的な記述から判断をしなければならないことも多く、一人前になるには10年ほどの経験が必要という。
こうした高度な業務は、従来はコンピュータで代替するのは困難と考えられてきた領域にあったはずです。
それが、既に2017年からAI技術で代替されてしまうという点が衝撃的と考えられる訳です。
即ち、AI技術は既に一般に考えられているレベルを遥かに超えてしまっているということなのです。
B. AI導入で具体的な人員削減数が明確になっている
従来、省力化や業務効率化で人員削減が発表されても、多くの場合は別な業務に配転するなど、実際の人が減ることを明確に報道しないことが普通でした。
ここには、日本の雇用を守る法律が安易な解雇を許さないという日本独特の事情があります。
しかしながら、本件では具体的に計34人を削減するとされております。
対象となる従業員は有期雇用であり、手厚い保護が求められる正社員ではないとはいえ、ここまで具体的な節減数を報道することは本当に稀と思われます。
何故そこまで具体的に数字を出しているのでしょうか?
その背景としては、日本の生保業界が、投資利益率が予定利率を下回り、投資家にもたらすリターンが資本コストを下回り始めたので、業務効率化を進めなければならなくなったからと考えられます(日経ビジネス 生保業界にある経営のブルーオーシャン)。
また、業界全体に及ぶ保険金不払い問題の対策も必要なのです。
生保業界を震撼させた保険金不払い問題
出典 保険業界の動向・現状を知るサイト
2008年7月、大手生命保険会社10社に対して、金融庁は業務改革命令を出しました。いわゆる保険金不払い問題によるもので、保険金支払い・内部監査の体制の強化・改変を要求したのです。
業務改革命令の対象になった生命保険会社を挙げてみます。2008年度は、国内生命保険会社では8社、外資系生保会社では2社です。それぞれ、第一・住友・日本・明治安田・富国・大同・朝日・三井、およびアフラック(アメリカンファミリー生命保険)・アリコジャパンです。2001年度~2005年度にかけての不払い総額は、生命保険37社で総額973億円、件数では約135万件にも及びます。
即ち、保険金を支払うべきケースには支払いの迅速化を進める必要があり、その為には属人的な判断を出来る限り排除することが不可欠なのです。
C. 同様の技術が同業他社への波及が具体化している
驚くことに、毎日新聞の同記事では投資回収まで公表されているのです。
同記事では、「AIのコストは、システム導入に約2億円、保守管理に年1500万円程度。一方、34人の人員削減による人件費軽減効果は年1.4億円程度と見られる」と説明されております。
即ち、単純計算で、投資回収は2年もかからない(2年間合計費用は、従来は人件費2.8億円vs. システム導入では2.3億円)ことになります。
ここまで、投資効率が明確になってしまうと、同様のAI化は同業他社でも実施されていくものと考えられます。
実際、記事によれば、大幅な人員削減や配置転換には至っていないが、第一生命保険が既にワトソンを活用した支払い査定業務システムを導入している一方、かんぽ生命保険も同業務でのワトソン活用を目指し、来年3月から試行導入を始めるうえ、日本生命は今月から顧客に最適な保障内容などをAIが分析し、営業職員の参考にしてもらう実証実験を始めているというのです。
即ち、保険業界で共通的な業務である保険金支払/査定業務は、既にAI技術で代替されることが確実な業務と考えられていることになります。
投資回収の短さを考えると、数十社ある他の保険会社もAI導入に至るのは時間の問題であろうと考えられます。
保険金支払/査定業務に携わる方々には、将来が厳しいと言わざるを得ません。
今回は、「<富国生命>AI導入、34人削減へ 保険査定を代替」という報道が意味することを考察してみました。
次回には、こうしたAI技術の進展が予測される中で、私たちはどのような仕事をしていくべきかを考察してみたいと思います。
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