近年ロボットが導入されるようになって、ロボットが人間から職場を奪うのではないかという問題提議が時々ニュースで報道されることがあります。

欧州と違い、日本ではロボットは人間のむしろ弱点である物理的な力が不足するところや職場環境が劣悪だったりする場所に、むしろ積極的に導入されてきましたが、知的生産の部分においては、ロボットが人を置き換えるようになるには、まだまだ年月が掛かると(希望的観測を含めて)思われてきたというのが現状です。

この知的分野と言えば、ディベートもその筆頭に挙げられると思います。

ディベートが必須である裁判所は、最難関の国家試験である弁護士資格を得た、知的エリートと目される弁護士が丁々発止の議論をしている職場と言っても過言ではありません。

そうした高い知性を要求されるディベートですが、はたしてコンピュータは人間と同レベル、あるいは人間を超えることができるかという挑戦がなされております。

コンピュータはディベートで人間を超えられるのか?
出典:日経コンピュータ「ディベートAI」の背後にある知性と感情2015/09/02
 賛否のあるテーマについて、肯定側・否定側に分かれて、互いに主張の理由と根拠を提示する「ディベート」。人間の論理思考力が試されるこの行為に、人工知能(AI)が挑んでいる。

 ディベートAIの研究から透けて見えるのは、本当に人を納得させる意見をAIに作らせようとすると、人間の論理思考力を再現するだけでは不十分、という事実だった。

 日立製作所は2015年7月、大量の英文ニュース記事を解析し、賛成・反対の理由と根拠を英文で表現できるディベートAIを開発したと発表した(図1)。東北大学大学院情報科学研究科の協力を得て開発したもので、コンピュータとの論理的な対話を実現するための基礎技術になるという。

 以下は、日立製作所が作成したディベートAI技術のデモ動画だ。「We should ban casinos(カジノは禁止すべき).」という議題を入力し、「Agree(肯定)」を指定すると、1分間ほど処理した後、「カジノを禁止すべき」理由について、過去の事例を交えながら2分間にわたって理路整然と意見を表明する。

 一方、同じ議題で「Disagree(否定)」を指定すると、やはり1分間ほど処理した後、「カジノを禁止すべきでない」理由について2分間説明する。

肯定・否定の議論を1分間ほどで作り上げ、2分間説明するとは、驚きのレベルです。

しかしながら、私が特に興味を持ったのが、価値を考慮しないとディベートAIは「論理的ではあるけれどインパクトを感じない、もぬけのカラのような意見」しかできなかったというところなのです。

出典:同上
柳井氏ら開発チームの話を聞いて興味深かったのが、ディベートAIに価値を取り入れた経緯だ。

 チームは当初、価値を考慮せずにディベートAIを試作したという。その結果、出力されたのは「論理的ではあるけれどインパクトを感じない、もぬけのカラのような意見だった」(柳井氏)。

 ディベートでは、複数ある価値のうち何を優先して論点にするかによって、表明する意見は大きく変わる。カジノの問題一つとっても、経済発展という利点を重視する人、ギャンブル依存症という被害を重視する人がいる。

 こうした人間の価値観を体系化し、テーマに関連する2、3の価値を選び、そこに理由や根拠を集約する仕組みとすることで「密度の高い、生き生きとした意見を出力できるようになった」(柳井氏)。

論理だけでは「もぬけのカラのような意見」しかできないという発見には、私も感銘を受けました。

私たちも、ディベートを学ぶとつい論理性に偏りがちな傾向があるのではないかと思います。

しかしながら、論理性だけを追求した議論は往々にして、何か説得力の欠ける、腑に落ちない議論になって、どこか言いくるめられたような感じが残るのではないかと思う次第です。

ディベートという言葉に否定的なイメージを持つ人が日本には多いと、以前のブログでも書いたことがありますが、その人たちはもしかすると、上記のような論理を振り回すだけの議論を聞いたことがあるのかもしれません。

もう一点、面白かったのが、「複数ある価値のうち何を優先して論点にするかによって、表明する意見は大きく変わる」ところです。

ディベートの試合では、あるテーマについて賛成と反対の両面から議論がなされるのですが、それぞれの立場がどんな価値を選んだかで、意見が変わるということをAI研究者に指摘されたと感じました。

これも、実に納得するところです。

例えば、自然を守る立場の人と、経済発展を志向する立場の人は、道路を山間に建設するにあたり、環境破壊についてアプローチの仕方や評価はかわることでしょう。

価値観の違いがあるからこそ、意見に大きな隔たりが生まれ、ディベートが必要となってくると思うのです。

このように、AI開発をするということは、人がどのように思考するかを解明することになるのではないかと、今後の発展を期待するばかりです。

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