多くの企業が働き方改革に取り組んでおりますが、いったい何のために働き方改革を進めるのでしょうか?
勿論すべての企業に共通の目的があるわけでありませんが、「働き方改革」先進企業から先例を学ぶことができるはずです。
これから3企業の先進的な取り組みを取り上げますが、その中で見えてきたのが、長時間労働是正がダイバーシティを実現させ、その先には企業の究極の姿であるイノベーションを創出できる企業へと変貌していくという大きな流れです。
始めの例は、残業を減らすのは手段で生産性を上げるのが本当の目的だとする日本電産です。
1973年に従業員3人と起業した日本電産は、国内外の50社以上を買収するなどして急成長を遂げ、現在では連結売上高が1兆2000億円(2015年度)、従業員が10万人を超える超大企業となっていますが、 創業時は、大企業の社員の倍の16時間は働かないと倒産してしまうモーレツな会社でした。しかしながら、2010年には、従業員10万人、売上高1兆円を超えたら抜本的に働き方を変えると発表し、残業ゼロを目指すようになったのです(JCAST 2017/1/30)。
会長の永守重信氏は次のように熱く語っております。
「残業ゼロは目的ではない。残業を減らすのは手段で、生産性を上げるのが目的」と繰り返し強調しております。」ドイツを例に挙げ、残業せず夏に1か月ほど休みを取っても、生産性は日本よりはるかに高いとして、「先進国でこんな残業を長くやってるってないですよ。まだまだ改善する余地がたくさんある(JCAST 2017/1/30)。
むしろ、残業ゼロのほうが、社員にとって厳しいですよ。5時半で終わらないといけないので、時間内に仕事ができる優秀な人が勝ちます。残業ゼロ体制は弱者にとって厳しいです。ですから体制の変更は時間をかけてやらないといけません。一度にやると大変なことになります(経済界 2017年5月1日)。」
「長時間労働を減らして、どんな効果がありましたか?」との質問に対して、永守重信氏は「女性幹部の登用」と「社員が勉強できる時間」だというのです。
「48歳に若返ったわ」永守氏、71歳の働き方改革 日本電産会長兼社長 永守重信氏
出典 NIKKEI STYLE 2016/6/14
「女性幹部の登用だ。部長級が6人になった。これまで、こんなに遅くまで働くのか、と女性から管理職が敬遠されていた。結婚し子どもがいて、家庭のことをしなければならない女性が働きやすいような職場にする。これで、将来の女性管理職予備軍も増えた」「もうひとつは、社員が勉強できる時間を作れるようになった。実は、お客様から営業部門はまだいいが、特にエンジニアに英語が通じない、というクレームが多かった。定時に帰って英語を勉強してもらう、会社で英会話教室を開くなど、残業するよりそっちに時間をかけたほうが、仕事の効率があがる。とにかく残業しないで勉強してほしい。
「女性幹部の登用」とは、別な言葉に置き換えれば、ダイバーシティです。
長時間労働の是正は、ダイバーシティの実現につながることが実証されているわけです。
次に2つの例を紹介します。
面白いことに、この2つの企業では働き方改革の究極の目的がイノベーションではあるのですが、味の素はダイバーシティの実現を推進中であり、丸井グループではダイバーシティを強力に推し進めた結果イノベーションが起き始めているステージに達しているのです。
始めの例が、午後4時30分終業でダイバーシティを目指す味の素です(以下、プレジデント ウーマン 2017年12月号)。
味の素では、「働き方改革」はただの時短目的ではない。日本的な「専業主婦がいる男性中心の働き方」では、ダイバーシティが実現しないから、働き方改革が必要になってくるのだとしております。
同質なメンバーで仕事をしているから、目的やテーマが曖昧なままスタートしがち。ブラジルで学んだことは、仕事というのは最初に課題、目的、やり方、すべてをダイバーシティの中で侃々諤々(かんかんがくがく)議論して決めるべきだということ。その過程で非常にユニークないい意見が出るんです。もんでから着手するので、すごい勢いで進む。こちらのほうがずっと効率がいいんじゃないかと。
ダイバーシティを進めるために、日本では特に女性の活躍が不可欠です。育休や時短など、いくらサポートする制度があっても、辞めていく人もいた。やはり特定の女性だけではなく、全体の時間を短くして早く終業できるようにする。それなら、心苦しくなく、堂々と早く帰ることができますよね。
持続的な成長のためには、当然イノベーションが必要。でも長時間、生産性の低い仕事をし続けていてはイノベーションが生まれにくい。社員には、短い時間で集中できる環境をつくり、残りの時間はさまざまなキャリアのために使ってほしい。育児も大事な人生のキャリア。無駄な残業で、キャリアが犠牲になる。今は共働きの男性も4時半に帰って、子育ての一翼を担うわけです。ダイバーシティとはジェンダーや国籍だけではなく、キャリアのダイバーシティでもある。さまざまな経験、キャリアを持つ人が集まれば、いい発想や活動が生まれると信じています。
次が、残業が年間44時間でダイバーシティを実現しイノベーションを目指す丸井グループです。
丸井グループは、エポスカード(昔はマルイカードでしたが)とファッション関係のマルイ店舗で有名ですが、2017年度ではグループ総取扱高が1兆9,336億85百万円、従業員数5,732名の一流企業です。
この丸井グループの青井社長は、2008年から働き改革を始めて2016年には残業が年間44時間まで減り、「日本で最も残業が少ない会社」と言われていると説明します。
「残業が大嫌いになった」丸井グループの社長は働き方をどう変えたのか
出典 ダイアモンドオンライン 2018.3.29
青井 僕は日本の労働観があまりよくないと思っているんです。「日本で働く人の約7割が自分のやっている仕事と働いている会社が嫌い」というショッキングなアンケート結果を見たことがあります。これは先進国の中でも最悪です。そういった労働観が変わらないと、20年以上停滞している経済も良くならないんじゃないか、と。
小室 7割が自分の仕事と会社が嫌い!なんと……。
青井 労働観を良くして、仕事をもっと楽しく創造的にするにはどうしたらいいか。そう考えたとき、きっかけづくりとして残業削減が大きいと思いました。(中略)
小室 2008年には有志が集まって「働くプロジェクト(ハタプロ)」をスタートしていますよね。(中略)現在、社員の平均残業時間はどれくらいになったのですか?
青井 2016年には年間44時間まで減りました。
小室 年間!?
青井 年間です。月間とよく間違われるんですけれども……。なので、「日本で最も残業が少ない会社」と言われているんです。
まず丸井グループではダイバーシティにどのように取り組んだのでしょうか?
「女性だけのチームで車をつくりました」というのはダイバーシティ第一段階。丸井グループの青井社長は、おじさんだけの会議では「あれ、女性が1人もいないよね。これじゃ会議ができないから、仕切り直そう」とダイバーシティを推進してきたのです。
「女性と外国人を入れればダイバーシティ」という大きな勘違い
出典 ダイアモンドオンライン2018.3.30
小室 御社では、ダイバーシティとしてどんな取り組みを実践されていますか?
青井 たとえば、おじさんだけの会議は行わない。「あれ、女性が1人もいないよね。これじゃ会議ができないから、仕切り直そう」と。年配者だけでも会議をしません。年代と男女のバランス、ダイバーシティがある会議や打ち合わせ以外は流してしまうんです。(中略)
小室 「部長会議」など、その会議に参加する役職に、まだ女性が就いていないということはなかったですか?
青井 あります。あるんですが、役職を超えていいからやろうよ、と。そのほうが若手の育成にもなるということで、どんどん参加してもらいました。
丸井グループの青井社長は、最大の成果はイノベーションを創出できる会社になってきたことと話されております。これは、従業員がより主体的・創造的に仕事に取り組めるようになり、やりがいとか楽しさが出てきたからだというのです。
「残業が大嫌いになった」丸井グループの社長は働き方をどう変えたのか
出典 ダイアモンドオンライン 2018.3.29
小室 働き方改革の道のりを振り返ったときに、ビジネスにおける最大の成果は何だったと思われますか?
青井 イノベーションを創出できる会社になってきたことかなと思います。残業には、やらされる負担感がありますが、それが減ってきたことで、より主体的・創造的に仕事に取り組めるようになり、やりがいとか楽しさが出てきたからだと感じています。(中略)今、当社は「インクルージョン」をテーマに、「LGBT」「女性活躍」「健康経営」といったことにプロジェクトを通じて取り組んでいます。プロジェクトは、社員が自主的に手を挙げて参加するんです。面白いことに、健康経営の人気が高く、50人の募集に対して約5倍の260名が手を挙げました。志望動機を書いてもらって、選考したんですけど、ものすごくやる気がある人ばかり集まりました。
今回は、「何のために働き方改革を進めるのか?」をテーマに、日本電産、丸井グループ、味の素の3社の事例を見てきました。
生産性を上げて長時間労働是正を目指す日本電産では女性幹部が登用できるようになったという。
午後4時30分終業でダイバーシティを目指す味の素。
そして、ダイバーシティを実現することで、イノベーションを創出できる会社になってきた丸井グループ。
それぞれの企業ではステージは異なるもの、長時間労働の是正がダイバーシティを実現させ、企業の究極の姿であるイノベーションを創出できる企業へと変貌していくという大きな流れが見えてきました。
皆様の企業ではどのステージにいるのでしょうか?
さて、丸井グループ青井社長は、1人の中の多様性をいかに作るかが大事だと指摘しております。それは、1人の中の多様性ができると、自ら深めてきた知と外部の知を組み合わせてイノベーションを起こして、新しい価値が生み出せるからだというのです。
「女性と外国人を入れればダイバーシティ」という大きな勘違い
出典 ダイアモンドオンライン2018.3.30
小室 御社では、働き方改革を続けてきた地道な活動の結果として、社内にもダイバーシティがあって、1人の人間の中にもダイバーシティがあった。だから外から入ってきたアイデアを素直に受け入れられたわけですね。
青井 今おっしゃった、「1人の中に多様性ができる」というのが、違う意見をインクルーシブに受け入れられることだと思います。だから、1人の中の多様性をいかに作るかが大事です。これができると、自ら深めてきた知と外部の知を組み合わせてイノベーションを起こして、新しい価値が生み出せる。
「1人の中の多様性をいかに作るかが大事」という考え方に私どもはもろ手を挙げて賛成いたします。
質は、私どもではこれをひとりディベートと呼んでいます。
物事には、一般的に良い点と悪い点、或いは好きなことや嫌いなことなどの両面性があります。
そこで、賛成と反対の両面から冷静に議論を検証してより良い結論を出す手法のことを、ひとりディベートと呼んでおります。
一般的に、誰でも自分の支持する立場が好きです。その為、自然と、誰もが自分の支持する立場に重きを置いて、問題解決を図ろうとします。
しかしながら、よく陥る罠がここにはあります。
それは、あまりにも自分の立場を擁護するために、ある意味「偏見」が強くなってしまい、バランスの欠けた議論に陥ることなのです。
例えば、誰かが問題点を示すと、そんなことはたいしたことではない、と十分に議論しないまま終わらしてしまったり、あるいは、極端な場合は、自分の意見を受け入れないことで感情的に反発をしてしまったりすることもあります。
こうした議論は、残念ながら説得性に欠ける可能性がとても高くなります。
また、一方的な考え方で構成された論理は、飛躍が多く、容易に否定されたり、あるいは、後で重要な問題が発覚する危険性もあります。
こうした危険性は、誰でもが問題の両面を同時に見ることで、自ら排除することができるのです。
つまり、自分の支持する議論に対して、自ら疑問を呈し、時にはその論理を修正することで、より説得性のある論理が構成できるようになるのです。
これが、「ひとりディベート」をお勧めする理由なのです。
ひとりディベートの事例は次のリンクから。
また、ひとりディベートを体得するのに効果的な企業研修は次のリンクから。