今多くの企業で注力しているのが、働き方改革です。
読者の皆様は、従業員が「自分がどこで働いているか、恥ずかしくて親戚に言えない」という仕事をしている会社で働き方改革を実行するとしたら、何をすべきか考えたことがありますか?
仕事の内容は「3K(きつい・汚い・危険)」である新幹線の清掃会社JR東日本テクノハートTESSEIは、かの有名なハーバードビジネススクールが絶賛する清掃会社です。
同社は、JR 東日本グループの企業で、主に東北新幹線・上越新幹線の清掃業務や構内業務などを担当している(従業員数 900 名弱)。新幹線が駅に到着し、折り返し発車するまでの停車時間は平均12分であり、その短時間の中で乗客が乗降する5分間を除いて、1 チームの基本構成員 22 名が、わずか 7 分間で各回の車両清掃を担当している。同社による一日の車両清掃の総数(平均)は、列車約 170 本、座席数約 17.3 万席に及ぶ(ニッセイ基礎研究所「7分間の奇跡」演ずる「新幹線劇場」への感謝と期待を込めて)。
美しい制服や衣装に身をつつんだ清掃スタッフたちが、驚異的な早さで新幹線を清掃する模様は、「7分間の奇跡」として海外メディアでも大きく取り上げられました。
今回は、この「7分間の奇跡」を紹介したいと思います。
「新幹線お掃除劇場」がハーバードに魔法をかける
出典 ダイアモンドオンライン 2016.1.20
佐藤 ビュエル助教授は、どの授業でテッセイのケースを教えていますか。また学生やエグゼクティブの反応はいかがだったでしょうか。「サービスオペレーションのマネジメント」という2年生の選択科目で教えています。卒業後、サービス系の企業で働きたいと思っている学生が多く履修している科目です。
テッセイのケースを第1講で取り上げたところ、反響がものすごくて、テッセイが学生たちを魔法にかけたのか、と思うほどでした。その後、学生たちは、他の事例を扱った授業でも「テッセイから学んだこと」を繰り返し発言しました。エグゼクティブプログラムでも同じような反響です。とにかく、テッセイは人々を感動させるすごい事例になっています。
最初は学生やエグゼクティブたちも、「清掃会社の事例なんか自分たちには関係ない。何が電車の清掃会社から学べるのだろう」という感じだったのです。このケースはあまり自分たちとは縁がなさそうな会社の事例だ、ととらえているように思いました。ところが議論を重ねていくうちに、授業の終盤には、「これは自分たちも参考にすべき普遍的な事例だ」ということに気づき、皆、テッセイの事例を賞賛しはじめます。その変化には教えている私も驚くばかりです。
ハーバードビジネススクールの学生が大絶賛のこのJR東日本テクノハートTESSEIは、始めからこのような奇跡を実現する会社ではありませんでした。
矢部輝夫氏がTESSEI(の前身である鉄道整備株式会社)の取締役経営企画部長に就任したのは2005年です。
当時のTESSEIは事故やクレームも多い、グループ内で「評判の悪い」企業だった。従業員のパート率58%。その半数は入社して1年未満と入れ替わりが多く、仕事のノウハウを伝え、サービスの質を保つことも難しかった(経済界 マネジメント1つで3Kの評価も変えられる)。
「プロ野球のピッチャー」「日劇のダンサー」「旅館の女将」という経歴から清掃員という清掃員という「川下」の職業に流れ着いてきた職員。
しかも、仕事の内容は「3K(きつい・汚い・危険)」で、子連れの乗客からは、「ちゃんと勉強しないと『ああいう風』になるのよ」と聞こえるように言われ、本人たちも「自分がどこで働いているか、恥ずかしくて親戚に言えない」仕事。
もし読者の皆さんが、こうした会社の取締役経営企画部長に就任したら、何をすべきでしょうか?
矢部輝夫氏は、まずスタッフたちの「しょせんお掃除屋」という意識を変えるようあらゆる手を尽くたといいます。
その結果、頻発していた乗客からのクレームは減り低かった従業員の定着率も上がるという大きな変化が生まれたのですが、実は変わったのは「マネジメント」でスタッフではない、と矢部輝夫氏は述懐しています。
日本の「清掃会社」がハーバードビジネススクールの教材になるまで
出典 DODA 2017/11/14
JR東日本に車両や乗客の安全対策の専門家として長らく勤めていた私が、TESSEI(の前身である鉄道整備株式会社)の取締役経営企画部長に就任したのは2005年のことでした。
(中略)
しかし、駅のホームで仕事振りを眺めていると、彼らはまじめに働いていたんですね。「自分たちはしょせんお掃除屋」という意識が、彼らの本来の良さにフタをしていると思えたんです。スタッフたちの「しょせんお掃除屋」という意識を変えるようあらゆる手を尽くしました。
効果てきめんだったのが「制服」です。清掃員ではなく、遊園地、レストラン向けなどいろんなカタログを持ってきて、彼らに新しい制服を選んでもらいました。
制服が変わると、まわりの反応が変わりました。
それまでは、「掃除のおばちゃんに何を聞いても分からないよね」と乗客に言われていたのが、「駅の近くでどこか良い飲み屋知らない?」と話しかけられるように。「人に見られている意識」が新しい制服の導入をきっかけに芽生えていったのです。
スタッフの頑張りをチームで共有し、ほめ合い、学び合う「エンジェルリポート」の取り組みも始めましたし、チームの名称も「クリーンセンター」から「サービスセンター」に変えました。
対面するときには、「自分たちを『川下』にいると卑下しないで。私たちの仕事はたしかな技術を持った『サービス業』なんです」と語り続けました。
こうやっていろんな工夫をしましたけどね、つまりは「自分の話に耳を傾けてくれて、自分を認めてくれる人」が、彼らには必要だったんです。あるときはこんなこともありました。
スタッフの一人から「旦那が仕事をクビになっちゃったからここで雇ってあげてよ」と頼まれたんです。それは大変ということで、後日「社長に頼んでおいたよ」と言うと、「え!そこまでやってほしかったわけじゃないのに」と笑って返されました。
今まではそうした悩みを打ち明けられるような、自分の話に真摯に向き合ってくれる人がまわりにいなかったんですね。それでは、「自分たちはしょせん清掃員」って自己肯定感を失ってしまっても仕方ありません。
”たかが” 清掃の仕事を「新幹線劇場」と呼ぶようにしたのもそのためなんです。
はい。清掃員からサービス業へと意識が変わったスタッフたちから、徐々にサービスの品質を高めるための提案が自発的に出てくるようになりました。
例えば、これは駅のホームで新幹線を待っている子どもに渡す「ぬり絵」。駅のホームで駆けまわろうとするあぶなっかしい子どもを、なんとか叱ることなく安全にしてあげたいと思ったスタッフが考えたアイデアでした。(中略)
結果、それまで頻発していた乗客からのクレームは減り、低かった従業員の定着率も上がり始めました。「どうしてスタッフの方々はこんなに変われたんですか?」と聞かれるんですが、彼ら自身は少しも変わっていないんです。そういう良さをもともと持っていたんですから。変わったのは「マネジメント」のほうなんです。
「顧客満足度を上げよう」とトップが言っても、人は動かない。そこで、矢部輝夫氏が徹底したのは従業員満足度の向上だったのです。従業員が仕事に誇りを持つようになることで、たとえどんな仕事であっても、自らやりがいを「作り出せる」ようになるというのです。
日本の「清掃会社」がハーバードビジネススクールの教材になるまで
出典 DODA 2017/11/14
私がマネジメントで徹底したのは、「ES(Employee Satisfaction:従業員満足度)」を向上させることでした。「CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)を上げよう」とトップが言っても、それを最終的にやるのは従業員、つまり「人」。人はきわめて情緒的で、家庭環境や職場の雰囲気に左右されやすい。「お客さまのためになるんだからやりなさい」では動きません。
ESを上げるうえで有効なのは、給料を上げることでも、従業員を甘やかすことでもありません。メンバーが仕事に意義を見いだし、誇りを持って働けるESの高いチームには、以下の「4つの特徴」があるように思います。
1.上に立つ者が明確な目標を持っていること
2.すべてではなく、一定の権限を従業員に与えていること
3.取り組みが成功したとき、上に立つ者が自分の手柄にしないこと
4.しかし、失敗したときは上に立つ者が自分の責任として受け止めることこれを繰り返していくうち、メンバーが仕事に意義を見いだし、上司やマネジャーについてくるようになると思いますね。
よく誤解されていると思うので、特に強調したいのが「1. 上に立つ人が明確な目標を持っていること」ですね。
一般的に、メンバーが仕事に意義を見いだすにはフラットな組織を作り、いろんな意思決定が「ボトムアップ」を中心に行われることだと思われているでしょう。
しかし、仕事の意義というものは、実は「トップダウンに始まり、ボトムアップで完成する」のです。
つまり、ボトムアップを否定するのではありません。メンバーが仕事に意義を見いだし、自律的に動ける組織を作るためには、まずは「チームの体幹を作ること」が必要です。
「なんでも自由にやっていい」だとめちゃくちゃになる。規律があるから、自由になれる。トップダウンでやるべきことはやり、その上でボトムアップでいろんなことに挑戦するんです。
だからこそ、メンバーが仕事に意義を見いだせるか否かは、上に立つ上司やマネジャーの手腕にかかっているんです。
トップダウンでやるべきことをやった従業員が、いざボトムアップで新しいことに挑戦しようとしたとき、それを形にし、形にしたものを広く発信し、外からの評価を得られるようにするのが、上に立つ者の仕事。(中略)
すると、メンバーは、自分の問題提起やアイデアに意義を感じられるようになる。そうすれば、たとえどんな仕事であっても、自らやりがいを「作り出せる」ようになるはずです。
矢部氏は、従業員からの提案を無視せずJR東日本側に伝え、実現に向けて取り組んだという。
出典 経済界 マネジメント1つで3Kの評価も変えられる――矢部輝夫
改革が進む原動力は、現場の従業員にある。しかしそれを根気強くトップダウンし続けるリーダー、もしくは上層部の「真摯さ」「真剣さ」「本気度」「熱意」も重要だと矢部氏は指摘する。例えば、従業員による駅にベビー休憩室を設置する意見や、新幹線内に女性専用トイレを備える提案を無視せずJR東日本側に伝え、実現に向けて取り組んだ。新幹線利用客をもてなすために発案されたアロハシャツやサンタクロースの衣装を着用することも、本社は「No」と言わなかった。
小さな会社だからできたのだという疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、矢部氏は、1万人企業だって、支社、支店の規模はTESSEIよりずっと小さいはずと指摘をします。
出典 日経ビジネス 「ダメな部下は、鏡に映ったあなたの姿」矢部輝夫「TESSEI」元専務に聞く(後編)
見学にいらっしゃる企業の中には「(規模が小さい)TESSEIさんだからできるんですよ。うちでは無理ですね」とおっしゃる方もいます。びっくりします。つまり、その方々の会社は規模が大きいので無理と言いたいのでしょう。だったら見学に来なければいいし、それに、1万人企業だって、1万人が同じ場所に集まって働いているわけではないでしょう。支社、支店の規模はTESSEIよりずっと小さいはずだし、その一つひとつが集まって大会社をつくっているんですから、そう考えればいいと思うんですよね。
また、この成果は日本人独自のものではないか、と疑問を持つ読者の方もいらっしゃるかかと思います。
実はTESSEには中国人が20人いて半分以上は社員だというのです。
出典 いい会社の理念経営塾(2) JR東日本テクノハート TESSEI顧問 矢部輝夫氏(後編)
シンガポールのチャンギ空港からこられた方が私たちの空港は多国籍なメンバーがやっているがこんな事はできるのか?と言われました。でも、TESSEIにも中国人が20人いて半分以上は社員です。なぜかというと、他の国の人も同じ日本人と見ているからです。自分たちの役割を再定義し、確固たるものをまず持たないといけません。
多国籍=レベルが低いというわけではありません。セコムが海外でも成功していてロンドン地下鉄でも活躍しています。日本人でなくてはということはありません。
自分の考え、思想をしっかりと持つことが重要です。
「7分間の奇跡」TESSEIは、どんな環境でも打開することができるという、希望が持てる好事例だと思います。
働き方改革の事例をもっと見るには次のリンクから。
働き方改革を進めるには人財への投資が必須です。企業研修は次のリンクから。
さて、経営においては、「従業員満足度」と「顧客満足度」の両方を重視するのが重要(今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業「平成27年度」)です。
・経営方針として「顧客満足度」を重視している企業は多いが、「従業員満足度」を上
位に挙げる企業は必ずしも多くない
・だが、調査結果は、業績や生産性の向上、人事目標の達成度合いに対して、どちら
かだけでなく、両方を追求することの効果が高いことを示している
従業員満足度向上には、仕事自体と評価において、適職感、自分力発揮、達成感、能力向上、評価と処遇が重要です(みずほ情報総研レポート「従業員満足度調査の活用」(2014年12月)。
このうち、従業員の能力向上は企業が働き方改革で盲点となっているのです。
本当の従業員の満足度向上には、従業員の能力開発を手助けして、より高度なスキルを身につけることで、高い目標を達成し、企業から評価と処遇を得られるというプラスのサイクルを実施することが必要なのです。
さらに、人材に投資をすることで企業の売り上げは増加するのです。
厚生労働省による平成17年度「能力開発基本調査」によると、過去数年の間に人材育成費を増やした企業のうち、売上高が増加している企業の割合は51.2%と半数以上を占めている一方、人材育成費を減らした場合、売上高が増加している企業の割合は24.1%にと留まっていることから、人財投資をすることは企業業績を向上させることがわかります。
では、従業員の能力向上にためにどのような企業教育をすべきでしょうか?
私が提案をしたいのが、ディベート研修です。
ディベートを学ぶことで、働き方改革を実現するために不可欠な6つの基本能力を獲得することができます。
1.論理的思考力
ディベートの基本は、「ロジック3点セット」。
全ての主張は、証拠と理由に基づかねば説得力を持ちえないという原則です。
「ロジック3点セット」がディベートの基礎であり、これをマスターすることで、あなたの議論はグローバルに通用するものとなります。
2.分析力
全ての議論を「ロジック3点セット」に照らし合わせて分析することで、その議論の強みと弱みをあぶりだすことができます。
また、「立論構成の最適化」の考え方に照らし合わせて議論構成をチェックすることで、その議論を的確に改善・強化できます。
3.洞察力
相手のロジックを推察する洞察力が身につくことで、相手のロジックを乗り越え、さらに高みのある議論に発展させることができます。
4.質問力
質問によりロジックを掘り下げ、議論をさらに深堀する技術。これをマスターすることで、実務現場で議論を推進し、より深みのある解決策を発見することができます。
5.問題解決力
ディベートの最終目的は問題解決。問題解決策をソリューションプランとして企画・立案できる能力を獲得できます。
原因分析に基づく解決策の提案で重要なコンセプトが「立案構成の最適化」。
これを学ぶことで、相手のニーズに合わせて、最も効果的なプランを提案できるスキルが身につきます。
6.コミュニケーション能力
ディベートでは実際に試合、あるいはプレゼンテーション、質疑応答といった演習を通じて総合的なコミュニケーション能力をブラッシュアップできます。思いがけない反論や、時間のプレッシャーの中で、いかに効果的に議論を進めてゆくべきかについて、身を以て学ぶことができます。
さて、働き方改革は、日本の産業を強くして競争力を取り戻すための絶好のチャンスです。そのための課題は、従業員一人一人が時間当たり労働生産性を向上させること、そして収益性の高いビジネスを開拓することです。本当の働き方改革実現の為には、社員が従来の慣習にとらわれず、効率的により良い成果を出せるようなスキル研修を積極的に実施すべきです。
詳細は次のリンクを御覧ください。