今回は、MBAが教える経営者研修の第四章「非財務情報ESG」を説明いたします。

コーポレートガバナンスコード【基本原則3情報開示】は次にように、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)として言及しております。

【基本原則3 情報開示】
更に、我が国の上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある。取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるように積極的に関与を行う必要がある。

始めに、非財務情報とは、企業に関する情報のうち、バランスシート、損益計算書、キャッシュフロー等の財務以外の情報のことです。

では、今何故、非財務情報が注目を浴びているのでしょうか?それは、近年人材や組織力、知的財産を含むイノベーション力等の無形資産が、企業の価値を大きく左右するようになってきたからなのです。

出典 NTTデータ 企業における非財務情報開示の動向~企業の持続的成長と日本経済へのインパクト~
Q.何故、非財務情報が重要視されるようになったのでしょう。
企業価値に対する考え方が変わってきたことが、最も大きな要因だと思います。最近では、企業の持つ価値の大半が、インタンジブルアセット、つまり無形資本によって占められるという認識が広がっています。従来の財務情報だけでは捉えきれない、人材や組織力、知的財産を含むイノベーション力等の無形資産が、企業の価値を大きく左右するという考え方です。特に機関投資家等が長期的な投資を行う際には、それらの非財務情報を把握することが重要と認識されています。財務情報だけでは企業の長期的な成長性やリスクを判断できないことが明らかになってきたため、非財務情報が不可欠な情報になりつつあるのです。

実際、MBAの名門であるニューヨーク大学スターンスクールの教授によれば、 「株価変化に影響を与える情報ソースの変化」は今や財務情報より非財務情報が数倍も影響力が強いとの調査結果もあります(経済産業省 伊藤レポート2.0)。

さて、非財務情報は多様な内容を指しますが、特に近年注目されているのが、ESGです。ESGとは企業や機関投資家が持続可能な社会の形成に寄与するために配慮すべき3つの要素とされる「環境・社会・企業統治」を示す言葉です(デジタル大辞泉より)。

それでは、ESG投資とはどのような投資でしょうか?

2006年に国連のアナン事務総長が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)」を提唱したことがきっかけとなり、広まってきました。

出典 環境ビジネスオンライン
通常の株式投資では財務の観点からのみ投資を行うが、ESG投資ではそれに加え、非財務項目である環境問題への取り組みや、株主、顧客、従業員、地域社会など、利害関係者に対し、いかに企業の社会的責任(CSR)を果たしているかをチェックして投資を行う。一般的にこのような投資は社会的責任投資(SRI)と呼ばれる。

環境(Environment)に関しては、パリ協定という世界的な大きな潮流があります。

パリ協定
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みを定めた協定。2015年12月パリで開催された「気候変動に関する国際連合枠組み条約第21回締約国会議」(COP21)で採択された(→気候変動枠組条約)。2016年11月発効。地球温暖化対策に先進国,発展途上国を問わず,すべての国が参加し,世界の平均気温の上昇を産業革命前の 2℃未満(努力目標 1.5℃)に抑え,21世紀後半には温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とする。

締結国だけで、世界の温室効果ガス排出量の約86%、159か国・地域をカバーするものとなっています(2017年8月時点)。

世界の有力機関投資家は、このパリ協定順守の立場で投資先企業に石炭の使用をやめるように要請しているのです。

出典 日本経済新聞 2018/12/21 [FT]機関投資家、欧電力企業に脱石炭迫る
シュローダーズ、リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント、米2大年金基金など、合わせて11兆ドル(約1300兆円)超を動かす投資家が、電力会社に対し、2030年までに石炭の使用をやめ、低炭素燃料にシフトする世界潮流への備えを明確化するよう迫った。

次に、社会(Society)です。

600兆円の運用資産を持つ世界最大級の機関投資家「ブラックロック」が、日本の有力企業400社に書簡を送っております。同社創業者、ラリー・フィンク会長兼CEO(最高経営責任者)の肉声を伝えるこの書簡は、日本企業に「従業員への積極的な投資」を呼びかけております。これは従業員が仕事に対してやりがいを感じていないと、企業の長期的な発展はないと考え方であり、「ブラックロック」が投資先企業を評価する際にも、それを重要項目にしているというのです(日経ビジネス 世界最大級の投資家が「働き方改革」を促すワケ)。

実際、電通高橋まつりさんの事件では過酷な仕事が問題を引き起こしたことが報道されており、企業価値も大きく毀損する結果となったことは忘れてはなりません。

最後に、企業統治(Governance)です。

近年数多くの一流といわれる企業で不正検査が発覚しております。自動車業界などではSUBARU(スバル)、日産自動車、スズキ、マツダ、ヤマハ発動機でも検査データ不正が相次いております。また素材分野では神戸製鋼所、中山製鋼、淀川製鋼所、三菱マテリアル、東レなど、驚くほど数多くの企業で長年にわたり不正検査等が行われていたことが明らかになり、企業価値が大きく毀損することになりました。

さて、世界の潮流に遅ればせながらも、日本の機関投資家もESGを重視した投資を重視し始めました。

例えば、日本の最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2017年から本格的にESG投資に乗り出し、今後約60兆円を国内外の企業にESGに配慮して投資していくことを表明しております。

また、日本サステイナブル投資フォーラムによれば、2016年には日本で約57兆円が経済的なパフォーマンスに加えESGに配慮しながら投資されたという統計を発表しております。

有力機関投資家のこうした投資に対する姿勢の変化が、投資先である各企業にとって大きな影響を与え、企業としては非財務情報、特にESGに十分配慮した経営が今後一層重要になってくることは間違いありません。

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MBAが教える経営者研修: 取締役及び執行役員向け