今回は、MBAが教える経営者研修の第四章「コングロマリット・ディスカウント」を説明いたします。

第三章「投資家を理解する」で検証したように、近年では日本の株式市場で最も影響力があるのは海外投資家となっております。

海外投資家の多くは年金ファンドを中心とした巨大な機関投資家であり、機関投資家は株主としての影響力を行使して、所謂「物言う株主」として、企業にパフォーマンスの改善を要求するようになってきました。

こうした背景もあり、政府がスチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードの必要性に言及したのは、安倍政権が発足して半年の2013年、日本経済復興のため、アベノミクスの3つの矢のひとつ、成長戦略(第三の矢)を発表したときでした。

その「スチュワードシップコード」の原則4「認識の共有との問題の改善」を再度取り上げてみましょう。

指針 4-1では、機関投資家として投資先企業との建設的対話を提唱しております。その目的は、「中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、 その持続的成長を促すこと」であり、もし企業価値が毀損されるおそれがある場合には、「より十分な説明を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである」としているのです。

機関投資家は中長期にわたり企業価値を向上させるという役割をもっているわけです。ここが従来の株式を売買することが中心であった投資家とは一線を画していることになります。これは、機関投資家はその資金力が大きく株式の売買で株価を大きく左右してしまうため、中長期に渡り企業価値の向上に努めざるを得ないからなのです。

「企業価値が毀損されるおそれがある場合」として、企業側が理解しておきたいのが「コングロマリット・ディスカウント」です。なお、コングロマリットとは、多くの場合、多種類の事業を営む企業や複合企業のことを指し、必ずしも大企業とは限りません。

始めに「コングロマリット・ディスカウント」の意味を確認してみましょう。

出典 投資用語集
企業全体の価値が個別の事業部分の価値の総和に比して低価していると市場に評価されることで、経営資源が分散化されて、個々の事業では競争力・成長性が低下するなどのコングロマリットのデメリットが、企業規模拡大や資源を多くの事業に投下することによるリスク分散というメリットを上回っているために起きる。

さて、「コングロマリット・ディスカウント」は事業それぞれに関連性が少ないことから生じると言われることが有ります。確かに、関連性が少なければ、何も一つの企業体にいくつもの事業が所属必然性は低くなりますし、シナジーも生まれにくいことはわかります。

しかしながら、関連性がある事業同士であっても「コングロマリット・ディスカウント」は生ずる可能性があることに注意しなければなりません。これは、経営資源が分散化されてしまうことで、本来有望な事業に十分な経営資源が配分されずに成長ができない場合などのケースのように、デメリットがシナジー以上のある場合にも生ずることです。

首相官邸未来投資会議(2017年1月27日)によれば、売上高営業利益率が5%以下の事業の比率を比較すると、 日本企業は62%である一方、米系企業15%、欧州系企業37%と、低収益事業の割合が日本企業は大変多いと指摘をしており、この原因のひとつが事業組換えに消極的なために日本企業は「コングロマリット・ディスカウント」に陥っていると解釈されます。

さて、この「コングロマリット・ディスカウント」ですが、「スチュワードシップコード」の原則にのっとって、投資家サイドから指摘されることもありますので、企業としては、この対策を早くから準備すべきなのです。

「コングロマリット・ディスカウント」の対策のひとつが企業分割です。

この良い例がGEです。

GE、戦略修正総仕上げ 中核ヘルスケア分離、油田サービス株は放出
出典 サンケイビズ 2018.6.28
フラナリー最高経営責任者(CEO)はこの日、「あらゆるレベルを改造している」と述べ、中核事業「GEヘルスケア」のスピンオフと、62.5%保有するベーカー・ヒューズ株を2、3年かけて売却する計画を明らかにした。(中略)
フラナリーCEOはスピンオフの背景について、人工知能(AI)や細胞療法といった動きの速い分野を中心に、GEヘルスケアに企業価値を損ねるコングロマリットディスカウントが生じる局面があったと述べ、「GEを離れることで、さらに急成長できると考えた」と説明。GEヘルスケアは株式の20%を売却し、残り80%はGEの既存株主に分配する。

もう一つの例は、2018年12月に予定されているソフトバンク通信事業の上場です。孫さんが「コングロマリット・ディスカウント」を解消するために、ソフトバンクの日本の通信事業を(親子)上場させるというのです。

勿論、全てに企業に企業分割が有効な解決策というわけではありません。

改定されたコーポレートガバナンスコードの【基本原則5-2】で従前から株主に対して説明が求められていた「経営資源の配分等」に追記されたように、自社の資本コストを把握したうえで、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を再考することも重要となります。

さて、今回は「コングロマリット・ディスカウント」を取り上げました。

次回は、「非財務情報ESG」を取り上げます。

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