唯一の戦争被爆国である日本政府は、国連総会で核禁止条約交渉入り決議が賛成113票で採択される中、反対票を投じました。
核禁止条約交渉入り決議、国連総会で採択 日本は反対
出典 日本経済新聞 2016/12/24
【ニューヨーク=高橋里奈】国連総会は23日、核兵器の使用を禁じる核兵器禁止条約の交渉入り決議を賛成多数で採択した。唯一の戦争被爆国でありながら、米国の「核の傘」の下にある日本は反対した。2017年3月のニューヨークでの交渉開始が正式に決まった。もっとも米国やロシアなど核兵器保有国は反対しており、実効性には疑問が残っている。
決議は賛成113票で採択された。棄権は13票、反対は35票だった。核兵器保有国である中国は棄権した。
決議は10月27日に開いた軍縮を話し合う国連総会の第1委員会で123票を得て事前に採択されており、今回、正式な総会決議となった。日本は第1委員会での採決でも反対した。
皆様は、核兵器禁止条約不参加に賛成ですか?反対ですか?
【核兵器禁止条約不参加に関する背景】
始めに、核兵器禁止条約とは何かを調べてみましょう。
<核兵器禁止条約>
出典 共同通信
核兵器の開発や実験、使用などを全面禁止する条約。核兵器使用は国際人道法に「一般的に反する」とした1996年の国際司法裁判所の勧告的意見を踏まえている。オーストリアやメキシコなどが主導して、交渉開始に向けた決議案を国連総会に提出。米国などの核保有国は強く反発したが、昨年(注:2016年)12月の国連総会で113カ国が賛成し採択された。日本や米英仏ロなど35カ国は反対、中国など13カ国は棄権した。交渉は今年(注:2017年)3月27~31日と6月15日~7月7日にニューヨークで実施。
核兵器禁止条約は、核兵器の開発、実験、製造、備蓄、移譲、使用、威嚇としての使用を禁止することを目指しております。
「核兵器禁止条約」の交渉会議が3月27日、米ニューヨークの国連本部で始まりましたが、日本政府代表で演説した高見沢将林軍縮大使は、交渉への不参加を宣言したのです。
一方、米国のヘイリー国連大使はこの日、英仏や韓国など約20カ国の代表とともに議場外で交渉を強く非難する会見を開いたのです。
「核兵器禁止条約の国連会議」はどうして生まれたのでしょうか?
核兵器禁止条約の国連会議に参加した日本共産党志位委員長によれば、「核兵器禁止条約の国連会議」を生み出しだしたのには、「二つの要素が重なった」、即ち、「核兵器の非人道性に対する理解が、国際社会の共通認識になった」ことと「国連を含む多国間会議の場における核軍縮議論のこう着状態への不満の高まり」があったことと述べております。
【核兵器禁止条約不参加に賛成側の意見】
賛成側の基本的な立場としては、核廃絶のような理想を掲げる時、その実施策が現実的に機能するのかどうかが重要である、という点にあります。
即ち、理想は掲げても解決に程遠いならば、少しでも理想に近づける現実的な施策を取っていくべきだと考えるのです。
実効性が重要という観点は、戦争を禁止する国際条約が機能していないことからも理解できます。
実際、戦争を禁止する国際条約は既にあります。まずは不戦条約、そして国連憲章です。国連憲章は国連に加盟している全ての国が守ることになっています。そこでは「武力の行使」が禁止されていまが、国連憲章の制定から60年以上たっても戦争はなくなっておりません。
戦争や武力紛争を全廃させることはできないなら、現実認識に立って、戦乱の中でもできる限り人命が失われるのを防ぎたい。人間の尊厳が踏みにじられることを防ぎたい。
こうした考えに基づいているのが、国際人道法であり、非人道的な武器の禁止など、戦争禁止が実現しない中、着実な成果を上げてきております。
さて、唯一の戦争被爆国である日本政府は国連で23年連続して核廃絶決議案を提出しております。
この日本が何故今回の核兵器禁止条約に反対したのでしょうか?
元防衛大臣で防衛大臣政策参与の森本敏氏は日本が反対した理由について、今回の核兵器禁止条約が、これまでに国連でなされてきた一連の核廃絶決議とは異なり、核兵器の法的禁止を目指しているからなのです。
今回の非核兵器禁止条約は、署名するすべての国に核兵器の禁止、少なくとも保有の禁止が義務付けられるため、この条約が成立すると、核保有国は参加せず、非保有国だけが加入する条約になってしまうのです。
即ち、核兵器禁止条約は核廃絶という理想に対して現実的な解決策ではなく、5大国の核兵器保有を認めることを前提とした核拡散防止条約(NPT)こそが理想に少しでも近づく現実策なのです。
米国連大使も、「自分の家族にとって、核兵器のない世界を何よりも強く求めたい。けれども現実的でいなくてはならない。北朝鮮が核兵器禁止に賛成するなど、信じている人はいますか?」と大使は述べ、さらに「今のこの時代状況で、悪いアクターに(核兵器を)持たせて、平和と安全を維持しようとしている良い我々に持たせないなど、それで国民を守れるとは正直言い難い」と懸念を示しております。
一方、日本軍縮学会会長である、淺田正彦・京都大学大学院法学研究科教授は、核兵器使用の禁止はアメリカの核抑止力に依拠する我が国の安全保障に直結する重大な問題であると指摘しております。
また、隣国が核兵器を持たないことを保証するNPTの存在は、その安全保障にとって不可欠であり、このNPT体制が崩れると、世界の平和と安全は根底から揺さぶられると懸念を示しております。
なお、日本政府が核兵器禁止条約に反対することが、従来の我が国核兵器廃絶に対する姿勢には何ら変わるところはないことは改めて説明しておきます。
実際、平成28年10月28日(現地時間27日)には我が国が国連総会第一委員会に提出した核兵器廃絶決議案,「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」が米国を含む約110か国が共同提案国となり,全体で167か国の支持という昨年を上回る共同提案国,支持を得て採択されております。
【核兵器禁止条約不参加に反対側の意見】
核兵器禁止条約が必要なのは、核兵器が非人道であり、禁止すべきだからです。
生物兵器、化学兵器、地雷、クラスター爆弾、これら非人道兵器は、国際的に使用を禁止する条約がありますが、核兵器を禁止する条約は、未だ存在しないのです。
さて、上記の通り、非人道兵器は国際的に使用を禁止されておりますが、一体人道的兵器と非人道的兵器はどのように区別されるのでしょうか?
それは、国際人道法で定められているのです。
即ち、「戦争時に、武器を所持していない民間人を殺してはいけない」「不必要な苦痛を与えてはいけない」、これらに反する行為を非人道的だとして禁じているのです。
御存知の通り、シリアが最近化学兵器を使用した疑いがあり、この行為は国際的に非難されております。
米国は、対抗措置として巡航ミサイル59発をシリアの空軍基地に発射したことを覚えているかと思います。
この非難の理由は、化学兵器使用は非人道的で許されないからです。
80人以上が死亡し、350人以上が負傷したと言われる化学兵器使用でさえ、国際的に避難されるのです。
数十万人、いや数百万人の命を瞬間に奪い去る核兵器が人道的に禁止されるべきなのは、当然なのです。
そもそも、今回の核兵器禁止条約は、いつまでも「核なき世界」を実現できないNPT体制にしびれを切らした非核百数十カ国が、アメリカやロシア、中国、フランス、イギリスなど既存の核保有国に対して取った、大胆な「抗議行動」だと指摘するのが、春原剛・上智大学グローバル教育センター客員教授です。
広島市の陸軍施設で被爆したサーロー節子さんは、日本の不参加を「裏切り」と、厳しく批判するのも納得できるのではないでしょうか。
また、NPT体制については、ピースボート共同代表で核兵器廃絶国際キャンペー ン(ICAN)の国際運営委員の川崎哲氏は、ある国の核に対抗するために他国の核が必要だという議論を認めたら、北朝鮮が言う、なぜ我々だけが核を保有することを許されず厳しい制裁下に置かれているのか、不平等ではないか、という議論を認めることになるとNPT体制の限界を指摘しております。
以上、核兵器禁止条約不参加について、背景、賛成の意見、反対の意見をまとめてみました。
皆様は、核兵器禁止条約不参加に賛成ですか?反対ですか?
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