最近、高齢者ドライバーによる交通事故の報道が相次いでおります。

相次ぐ80代ドライバーの事故 「認知症のおそれ」でも免許更新可、家族の申し出でも取り上げられず
出典 Livedoor NEWS
2016年11月24日デイリー新潮
 ピーク時の年間約100万件から半分近くに減った交通事故。飲酒運転の厳罰化など、様々な取組の成果だが、それに逆行して急増したのは、高齢者が“加害者”となるそれだ。この秋も死亡事故が続出。今や「80代ドライバー」の愛車は、「走る凶器」と化している。

前回は、統計から85歳以上のドライバーの交通事故数について検証してみました。

今回は、この問題を深く考えてみたいと思います。

前回は、85歳以上のドライバーだけに着目してデータを検証してみました。

では、他の年齢層と比較をしたらどうなのでしょうか?

ここで比較するのは、10万人当たり交通事故件数ですね。交通事故件数の絶対数(件数が多い、少ない)は各年齢層の人口が異なるため、正しい判断材料にはなりません。

警視庁が公表している交通事故の発生状況データが最も信頼性が高いと思われますので、平成28年3月30日発表の平成27年における交通事故の発生状況を見てみましょう。

以下、統計数値は平成27年における交通事故の発生状況(警察庁交通局)より引用。

各年齢層別交通事故件数の推移がグラフで示されておりますので、平成17年と平成27年の両年で、10万人当たり交通事故件数が多い順にトップ4の年齢層を取り上げてみます。

平成17年  平成27年
No1(16~19歳2,885.3件)  No1(16~19歳1,888.8件) 
No2(20~24歳1,878.8件) No2(20~24歳1,144.9件)
No3(25~29 歳1,306.6件)  No3(25~29 歳814.1件)
No4(85歳以上1,239.0件) No4(85歳以上811.3件)

どの年齢層でも交通事故件数は、平成17年から平成27年で大きく減少しています。

そして、興味深いことに、交通事故件数トップ3は、両年ともNo1(16~19歳)、No2(20~24歳)、No3(25~29 歳)なのです。

即ち、85歳以上のドライバーが起こした10万人当たり交通事故件数は、両年ともNo4なのです。

特にNo1(16~19歳)は、85歳以上のドライバーの事故数と比較して両年ともに2.3倍、No2(20~24歳)でも、1.4~1.5倍もあるのです。

もし、85歳以上のドライバーの事故数が(どのような理由であれ)問題であれば、それ以上にNo1(16~19歳)とNo2(20~24歳)を問題にすべきということなのです。

確かに、高齢者ドライバーでは認知症によると考えられる交通事故が増えているというのであれば、その対策を検討することは理解できます(下記に関連エビデンスを掲載しました)。

しかしながら、交通事故数を減らすという観点で言えば、最も大きな問題、或いは最も重要な問題を最初に対処すべきというのが、ディベート的な考え方なのです。

即ち、もし85歳以上のドライバーの交通事故が増加して大きな社会問題となってきているので対策すべきというのであれば、(85歳以上のドライバーの事故対策するのは良いこととして)、同時に、いやそれ以上に16~24歳のドライバーの事故対策を実施すべきではないか、という議論ができるわけです。

では、何故高齢者ドライバーの事故が多発といった記事が突然に多く見られたのでしょうか?

それは、2017年3月に改正道路交通法が施行され、免許の更新時の検査で、認知症の疑いがあるとされた75歳以上の高齢者は医師の受診が義務付けられるというのです。

認知症ドライバーへの対策強化 改正道交法施行令を閣議決定
出典 日本経済新聞 2016/7/12
 政府は12日、認知症の高齢ドライバーへの対策を強化する改正道路交通法施行令を閣議決定した。逆走や信号無視など18項目の交通違反をした75歳以上のドライバーに、臨時の認知機能検査を課す。来年3月12日に施行される。
 施行令は臨時検査の対象となる18項目を、逆走や信号無視、遮断機が下りた踏切への進入、必要な徐行を怠った場合などと規定した。いずれも認知能力の低下と結びつきが強い行為とされ、違反時に検査することで重大な事故を未然に防ぐのが狙いだ。
 臨時検査で認知症の恐れがあると判定されたら医師の診察を受けなければならない。認知症ならば免許取り消しか停止となる。臨時検査や医師の診察を受けない場合も、免許取り消しになる可能性がある。
 認知症の恐れがなくても、検査結果が直近の免許更新時より悪い場合は、実車指導など2時間の臨時高齢者講習を受ける必要がある。一方、違反の3カ月前までに臨時検査を受けているときは検査は受けなくてもよい。

こうした認知症の高齢ドライバー対策の強化に関して、社会の理解を深めようとして、高齢者ドライバー事故を意図的に報道するように仕向けているも考えられますね。

一方、これに対して、日本神経学会など4団体が交通事故と認知症の結び付けに疑問を呈しているのです。認知症と危険な運転の因果関係は明らかでないというのです。

認知症高齢者「免許取り消し」 専門医が施行中止呼びかけ
出典 日刊ゲンダイ 2017年1月22日
 今年3月に改正道路交通法が施行されたら大パニック――。
 免許の更新時の検査で、認知症の疑いがあるとされた75歳以上の高齢者は医師の受診が義務付けられる。そこで「認知症」と診断されると、免許が取り消される。更新時の「認知症の検査」は現在もすでに行われていて、疑いがあるのは年間約5万人という。この人数が医療機関にドッと向かえば、病院は大混乱だが、問題はそれだけではない。
 今月6日、日本神経学会など4団体が「医学的な『認知症の診断』に基づくのではなく、実際の運転技能を実車テストなどにより運転の専門家が判断する必要がある」と提言。交通事故と認知症の結び付けに疑問を呈したのだ。
■医師にとっても苦渋の診断
 日本精神神経学会法委員会の委員で精神科医の中島直氏もこう言う。
「認知症かどうかと運転が可能かどうかは別問題。まったく的外れな対策です。重病ならどんな病気でも運転に支障をきたす。認知症と危険な運転の因果関係は明らかでない。高齢者の事故がニュースで強調されています。しかし、統計のとり方にもよりますが、交通事故の件数は若年者の方が多いのです。認知症と結びつけて高齢者だけをターゲットにするのは間違いです。免許を取り上げられた高齢者はそれこそ病院にも行けなくなります」(中略)
 改正法の施行は3月12日。目前に迫っている。(中略)
 専門医がこれだけ反対しているのだ。見切り発車は危ない。

こうした専門家の意見を踏まえずに、改正道交法施行令が決定さたのしょうか?

私は、認知症と危険な運転の因果関係については、専門家の意見を踏まえて慎重に検討すべと思います。

さて、今回の検証で学べることは、メディア報道にはある種のバイアスがあることを、私共は理解して、特定の報道機関や記事の内容を鵜呑みにすべきではないということです。

今回は、高齢者ドライバーの交通事故に対して様々な角度から考察をしてみました。

次回は、報道のバイアスに対して私たちはどのように対処すべきかを考えてみたいと思います。

 

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