今回は、MBAが教える経営者研修の第四章として「スチュアートシップコード」を説明いたします。
第三章「投資家を理解する」で検証したように、近年では日本の株式市場で最も影響力があるのは海外投資家となっております。
海外投資家の多くは年金ファンドを中心とした巨大な機関投資家であり、機関投資家は株主としての影響力を行使して、所謂「物言う株主」として、企業にパフォーマンスの改善を要求するようになってきました。
こうした背景もあり、政府がスチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードの必要性に言及したのは、安倍政権が発足して半年後の2013年、日本経済復興のため、アベノミクスの3つの矢のひとつ、成長戦略(第三の矢)を発表したときでした。
実際、機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則として日本版スチュワードシップコードは、コーポレートガバナンスコードに先駆け、2014年2月に制定(その後2017年5月29日改定)され、その内容は次の通りです。
1. 方針の策定・公表:機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすために方針を策定公表すべき
2. 利益相反の回避:機関投資家は、管理すべき利益相反について、方針を策定し公表すべき
3. 投資先の把握:機関投資家は、資先企業の状況(ガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、事業におけるリスク・収益機会(社会・環境問題に関連するリスク、それらの対応)を的確に把握すべき
4. 認識の共有・問題の改善:機関投資家は、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべき
5. 議決権行使:機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について、形式的な判断基準にとどまるのではない方針を持つべき
6. 顧客・受益者への報告:機関投資家は、スチュワードシップ責任の履行状況について、定期的に報告を行うべき
7. 機関投資家機の研鑽:機関投資家は、投資先企業との対話を適切に行うための実力を備えるべき
この中から、重要点として2つ取り上げたいと思います。
1点目は、原則4「認識の共有との問題の改善」です。
指針 4-1では、機関投資家として投資先企業との建設的対話を提唱しております。その目的は、「中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、 その持続的成長を促すこと」であり、もし企業価値が毀損されるおそれがある場合には、「より十分な説明を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである」としているのです。
機関投資家は中長期にわたり企業価値を向上させるという役割をもっているわけです。ここが従来の株式を売買することが中心であった投資家とは一線を画していることになります。これは、機関投資家はその資金力が大きく株式の売買で株価を大きく左右してしまうため、中長期に渡り企業価値の向上に努めざるを得ないからなのです。
次が、原則5「議決権行使」です。
2017年5月29日改定で大きく変わった原則で、機関投資家は議決権の行使結果を「個別の投資先企業及び議案ごとに公表」するこが求められたのです。
この改定に呼応すべく、国内の有力機関投資家は本年度の株主総会では議権行使結果を公表しました。
例えば、三井住友信託銀行では議決権行使結果を公表し、2018年4月~6月に開催された株主総会では、1,720社の17,675件の議案に対して反対票を3,567件(20.3%)投じたとしています。
一方、企業側としては反対票があったとしても議案が可決されたから終了と安心できません。
コーポレートガバナンスコード原則1-1① では、「取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである」とされており、企業側も放置せず対応を迫られているのです。
一昔前の安定株主が多かった時代とはまったく状況が異なってきたのです。
また、議決権行使公表と共に大きくクローズアップされているのが、大手議決権行使助言業者である、ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)グラス・ルイス(Glass, Lewis & Co., LLC)です。
今後、日本の機関投資家に、スチュワードシップの責任ある履行のために、外部から議決権行使に関する助言を購入する傾向が強まるのは必至と考えられるからです。
さて、今回は「スチュアートシップコード」を取り上げました。
次回は、「コングロマリット・ディスカウント」を取り上げます。
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