「パチンコ店と競輪場を訪れていた生活保護受給者の保護費支給を一部停止:賛成ですか?反対ですか?
問題の背景
別府市では2015年10月、ケースワーカーら35人が市内のパチンコ店13店と競輪場を5日間巡回。発見した受給者25人に対して指導し、調査中に再び遊興していた9人の保護費支給を1~2カ月間停止しました。
この別府市の判断に、皆様は賛成ですか?反対ですか?
パチンコで生活保護停止「違法」 別府市に弁護士ら意見書
出典 西日本新聞 2016年03月10日
大分県別府市が生活保護受給者のパチンコ店や競輪場などの「遊技場」への立ち入りを調査し、複数回見つけた受給者の保護費支給を一部停止していることについて、九州・沖縄の弁護士らでつくる「生活保護支援九州・沖縄ネットワーク」は9日、「支給停止は違法」として処分の取り消しを求める意見書を提出した。意見書では、別府市の対応について「被保護者の自由を尊重し、指導や指示は最小限度にしなければならない、と定める生活保護法27条に違反する」と指摘。ネットワーク事務局長の高木佳世子弁護士は「パチンコなどは一般市民が楽しんでおり、それを制限すると、生活保護の受給をためらうことにつながる」と述べた。県、厚労省にも是正を求めて意見書を送付する。
別府市社会福祉課は「27条の趣旨は理解した上で、ケースワーカーなどを通じて指導をしている」としている。市は、遊技場への立ち入り調査を年に1回、少なくとも1990年以前から続けており、昨年10月の調査では、複数回見つけた9人について、医療費を除く保護費支給を1~2カ月停止した。
この議論に拍車をかけたのが、今年2月には生活保護を受けていた夫婦が「パチンコに行くため」に6歳の息子を全裸で風呂に閉じ込めた事件の報道です。
出典 デイリーニュースオンライン 生活保護でパチンコなぜ悪い?過熱する”最低限度の生活論”2016年3月8日
そんな中、2月に大阪府枚方市で「パチンコに行くため」に6歳の息子を全裸で風呂に閉じ込めたとして妻と内縁の夫が逮捕された事件をきっかけに「パチンコ禁止」賛同派の勢いが増加。夫婦は無職で子供3人と5人暮らし。妻が生活保護を受給しており、これが「生活保護でパチンコは悪」とする意見を喚起することになった。
「是非は別にしても、かなりの生活保護費がパチンコ遊興費に流れているのは間違いないでしょう。パチンコ店は生活保護費の支給日である毎月1日~5日は高回収が見込めるため、出玉を絞るのが定番になっているほどです。近年は一般ユーザーのパチンコ離れが進んでおり、店側にとって生活保護費と年金が大きな収益源になっています」(パチンコ専門誌ライター)
報道日時は少し古くなるが、沖縄県八重山諸島の石垣市でも同様の実態が報告されています。
何のための生活保護費か「パチンコ遊興」に批判広がる
出典 八重山毎日新聞2010年10月23日
抜き打ち調査でもっと増える?
石垣市内で生活保護を受けている受給者の一部でパチンコ店に出入りしている実態が明らかになった。9月の支給日に受給者11人がパチンコ店で遊興していたことが、市福祉総務課の実態調査で発覚したもの。市民からは「何のための生活保護か」と不満の声が上がるなど波紋が広がっている。(比嘉盛友記者) 同課は9月上旬、パチンコ店3店舗にケースワーカー7人が立ち入り調査を実施したところ、受給者11人を確認した。同課は誓約書を書かせるなど、支給停止も辞さない強い態度で指導した。 報道後、パチンコ店に通う読者からは「受給日から数日間は受給者とみられる人が多くなる」との情報が寄せられた。市議会の委員会審査で今回の件をただした小底嗣洋市議は「抜き打ちに調査すれば、もっと出てくるのではないか」との見方を示す。
また、2013年には庫県小野市で、生活保護費や児童扶養手当をパチンコなどのギャンブルで浪費することを禁止し、市民に情報提供を求める「福祉給付制度適正化条例」が成立しているのです。
出典 ZAKZAK生活保護でのパチンコ禁止条例 片山さつき氏「全国の自治体も考えて」2013.04.03
生活保護費や児童扶養手当をパチンコなどのギャンブルで浪費することを禁止し、市民に情報提供を求める「福祉給付制度適正化条例」が先月末、兵庫県小野市で成立した。一部で「監視社会を招く」との批判もあったが、議会や市民の多くが支持している。
パチンコ店と競輪場を訪れていた生活保護受給者の保護費支給を一部停止に賛成する意見
始めに、賛成派の代表として、当事者である別府市の考え方を見てみましょう。
生活保護者が朝からパチンコはよくない」 別府市の「巡回」「支給停止」にネットで称賛相次ぐ
出典 JCAST 2015/12/17
別府市の調査は、2015年10月の計5日間、市職員35人が市内にある13のパチンコ店と市営別府競輪場を巡回。見つけた生活保護受給者25人を一人ずつ市役所に呼び出して注意し、次の巡回で再び見つけた場合は1か月分支給額を大幅に減らした。
市によると、こうした調査は少なくとも25年前から年1回のペースで実施されていた。巡回する時間帯は10時頃から16時頃まで。3回以上見つけた受給者については、2か月にわたって支給額を減らした。 (中略)
調査を始めた理由について市の担当者は、「別府市は他都市に比べて生活保護の受給率が高く、遊興施設も多いです。市民感覚からすると、受給者が昼間からパチンコ店に入り浸る様子は受け入れられるものではないでしょう」と話す。
実際、受給者が遊技施設に出入りする様子を見た市民から頻繁に苦情、抗議が寄せられていたようで、「(苦情が)来ない日はないくらいでした。今でも週に2~3回は受けています」と明かした。そのためか、朝日新聞の報道後に寄せられたメールのほとんどが市の取り組みを「励ます」ものだったという。
「受給者への人権侵害になるのでは」との指摘には、十分配慮していると答えております。
出典 同上
前出の別府市担当者にこの点をぶつけると、「人権には十分配慮していると考えています。受給者がパチンコを一切してはいけない、と言っているのではなく、『朝や昼間からパチンコ店に入り浸るのは良くない』というだけです。職員の巡回しない夜間については、あえて勧めませんが、(受給者が)気晴らしで行くことを厳しく咎めません。もちろん受給者にも楽しみが必要だと認識しています。ただ、出来れば地域活動やボランティアなどギャンブルとは違う部分で発揮して頂きたいとは思っていますが」との答えが返ってきた。
一方、「受給者からささやかな楽しみを奪う」と反対意見に対して、生活保護制度について問題提起を続けている片山さつき参議院議員は「ギャンブルを楽しむのは(憲法の)幸福追求権に含まれるのか」と疑問を呈しています。
出典 ZAKZAK生活保護でのパチンコ禁止条例 片山さつき氏「全国の自治体も考えて」2013.04.03
生活保護費や児童扶養手当をパチンコなどのギャンブルで浪費することを禁止し、市民に情報提供を求める「福祉給付制度適正化条例」が先月末、兵庫県小野市で成立した。一部で「監視社会を招く」との批判もあったが、議会や市民の多くが支持している。生活保護の不正受給を追及してきた、片山さつき総務政務官(自民党)は「この条例を参考に、全国の自治体も生活保護の地方自治による適正化を考えてほしい」と評価した。(中略)
条例の採決では、共産党市議1人が「受給者からささやかな楽しみを奪う」と反対したが、これにも片山氏は懐疑的だ。
「ギャンブルを楽しむのは(憲法の)幸福追求権に含まれるのか。ギャンブルがないと生きていけないなら、それは依存症に他ならない。まずは治療すべきでしょう」
現実に、この条例には小野市民の6割が賛成しており、インターネットの世論調査でも約8割が「生活保護でギャンブルを見つけたら通報する」と回答している。
そして、片山さつき氏は、問題は生活保護費が高すぎることにあると指摘をしています。
出典 同上
今の日本の生活保護って、全くそれにかかる義務がないんですよ。例えば、多くの外国では受けている生活保護からできるだけ早く抜けていただくための措置をとっております。ドイツなんかでは勧められた仕事を断っちゃいけないんだけど、日本にはそれがない。しかも生活扶助として支給される額が外国に比べてすごく水準が高い。この国では1か月6万円から8万円(生活扶助のみ。地域により幅がある。)1人あたり国民所得は日本と同水準の欧米先進国では3万円台までです。寮みたいなのに入れっていう国もあれば、デンマークなんかは国への借金になっていて、返す義務があるわけ。(中略)
さらに余裕がある額を出しているから、これじゃあ(生活保護から)抜けない方が得と思う人が出てくるでしょうね。(中略)ギリギリで良いのではないでしょうか。医療、社会保険料、税金すべて、ほとんどタダですよ、この制度。払わされるものはほとんどないですよ。(中略)
ただ、実体的に国際的な相場と比べてあまりにも高いことは明白なので、これだったら下手な仕事をするよりも生活保護にとどまってしまうのは、人間の性として当然です。
パチンコ店と競輪場を訪れていた生活保護受給者の保護費支給を一部停止に反対する意見
生活保護支援2団体は、憲法上認められた保護受給権の剥奪として取り消しを求めています。
遊技場調査中止を 生活保護支援2団体、別府市に意見書
出典 大分合同新聞 2016年3月10日
パチンコ店など遊技場に立ち入った生活保護受給者への給付を別府市が一部停止したことについて、弁護士らでつくる2団体は9日、遊技場での調査中止と給付停止処分の取り消しを求める意見書を市に提出した。
2団体は生活保護支援九州・沖縄ネットワーク(北九州市)と生活保護問題対策全国会議(大阪市)。ネットワークの高木佳世子事務局長ら弁護士4人が市役所を訪れた。
高木事務局長は「保護費の使途は基本的に自由。憲法上認められた保護受給権の剥奪で、重すぎる処分だ」と述べた。
パチンコ店など遊技場へ出入りする行為は、それが生活保護費の範囲内で、ささやかな楽しみ(娯楽)であれば、なんら法に反していないとするのが高木佳世子弁護士です。
別府市「パチンコで生活保護を一部停止」処分、市民グループが「違法だ」と意見書提出
出典 弁護士ドットコムニュース 2016年03月09日
一方で、生活保護支援九州・沖縄ネットワークなどの意見書は、「被保護者(=受給者)の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない」(生活保護法27条2項)「被保護者の意に反して、指導または指示を強制し得るものと解釈してはならない」(同法27条3項)などの趣旨に反するとして、市側の対応を「違法だ」と批判している。
また、意見書は「パチンコ店など遊技場へ出入りする行為は、それが生活保護費の範囲内で、ささやかな楽しみ(娯楽)として行われる限りは、何ら法の目的に反するものではない」として、指導・指示の中止や処分の取消しなどを求めている。
朝日新聞に掲載された「パチンコなどはもっとも身近で手頃な楽しみ」とする64歳男性の考え方も参考になります。
生活保護でパチンコなぜ悪い?過熱する”最低限度の生活論”
出典 デイリーニュースオンライン2016年3月8日
また、3月2日付の『朝日新聞」では「(どう思いますか)1月12日付掲載の投稿『生活保護者の「遊興」調査は妥当』」との記事が掲載されたことがさらに議論を過熱させた。(中略)
特に議論を呼んでいるのは「保護費でパチンコなぜ悪いの?」と題した64歳男性からの投書。
男性は「旅行やゴルフに興ずるのが無理であろう生活保護者にとって、家に閉じこもってばかりいないためにも、パチンコなどはもっとも身近で手頃な楽しみであろう。依存し過ぎて生活を破壊することは、楽しむこととは別の問題」と反論。さらに「誰もが好き好んで生活保護を受けているわけではない。生活保護を生む社会構造こそが問題で、それは政治が解決すべき喫緊の課題である」とし、最後に「ギャンブル、なぜ悪い。調査と支給停止を『適切でない』とする厚労省の指摘は正しい」と結んでいる。
また、「別府市の生活保護利用者のパチンコ問題」ではなく、「別府市のパチンコ愛好者全体の一部に見られる問題」として扱うべきとする意見もあります。
出典 ダイアモンドオンライン 生活保護でパチンコは禁止」を25年続ける別府市の主張
みわよしこ 2016年3月4日
生活を破綻させるほどのパチンコの背景に「お金入れたら遊んでくれるパチンコ台くらいしか友達がいない」という孤立・寂しさがあること自体は、ありふれた話だ。すべての依存症の背景は、肉体的依存の問題を除いて、ほぼ同様である。ゆえに「社会的環境等に問題」という認識については同感。しかし、問題の位置づけと対処に異論を申し上げたい。「別府市の生活保護利用者のパチンコ問題」ではなく、「別府市のパチンコ愛好者全体の一部に見られる問題」として扱うべきではないだろうか?
そもそも、生活保護利用者だけを対象にして「張り込み」「処分」を行うこと自体が、人権侵害や差別となりうる可能性や、そのように見られてしまう可能性を免れない。しかし「別府市の」パチンコ依存問題として対処すれば、市内全体のメンタルヘルスの向上をもたらし、市民全体が恩恵を受ける。また、たとえば「パチンコ依存症」という同じ問題に対して、生活保護を利用している人も利用していない人も協力して取り組めば、「生活保護ならでは」の孤立の問題も解消されやすくなるであろう。
さて、「パチンコ店と競輪場を訪れていた生活保護受給者の保護費支給を一部停止について、賛否を見てきました。
読者の皆様は、賛成ですか? 反対ですか?
なお、行政に携わる地方自治体の方々と住民側として社会行政問題に関わる方々に対して、懸案問題に対して賛成と反対の両面から検討することで、問題の本質を掴み、内因性を理解することで、合理的で本質的な解決策を見出していくことを目指す、ディベート教室をご提案致します。
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