賛否両論あるカジノ法案が昨年12月に成立しました。

カジノ法案成立 与党・維新の賛成多数
出典 日本経済新聞 2016/12/15
カジノを含む総合型リゾート施設(IR)の整備を推進する法案(カジノ法案)が2016年12月15日未明の衆院本会議で自民党や日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。
法案は14日夜の参院本会議で修正のうえ可決され、衆院に戻されていた。これを受け22時から開かれた衆院本会議で、14日までだった会期を17日まで再延長することを議決し、15日未明に成立させた。法案に反対する野党4党が提出した内閣不信任決議案は、与党などの反対多数で否決された。

カジノ法案が衆参両院で可決されました。

しかしながら、議論が充分でないと成立に懸念を示す声が多くあります。

例えば、新聞各紙も一斉に反対の論陣を張っているのです。

推進派も反対する拙速議論でカジノ解禁法案が爆速成立へ 置き去りにされた課題は
出典 BuzzFeed Japan 2016/12/3
新聞各紙も、一斉に反対の論陣を張っている。カジノ推進派である産経新聞でさえも、早急な議論に懸念を表明した。
朝日新聞は12月2日の社説「カジノ法案 危うい賭博への暴走」で、「最大の懸念のギャンブル依存症」と指摘した。
読売新聞も同日、「カジノ法案審議 人の不幸を踏み台にするのか」という強い見出しの社説を掲載した。「ギャンブルにはまった人や外国人観光客らの“散財”に期待し、他人の不幸や不運を踏み台にするような成長戦略は極めて不健全」としている。
産経新聞はこれまで、法案について「多くのメリットが期待される」と好意的に評価してきた。しかし、この日の「主張」では「カジノ解禁法案 懸念解消を先送りするな」と批判。朝日や読売と同様の疑問点を並べ、「多くの疑問を残したまま、駆け込みで事を進めている」と指摘した。

推進派は経済効果を狙い成立を急ぐ一方、反対派はギャンブル依存症を危惧しております。

「カジノ解禁法案」成立へ 与野党議論かみ合わぬまま
出典J-CASTテレビウォッチ 2016年12月14日
推進派がイメージするのはシンガポールだ。日本にも幾つかある統合型リゾートにカジノ・ホテルを設けて、経済効果を狙う。賛成派の美原融・大阪商業大教授は、「高い消費力、税収力、地域経済効果などプラスの経済効果は期待出来る」という。安倍首相は「雇用の効果」もうたった。
一方の反対派、新里宏二弁護士は、「一番はギャンブル依存症問題だ」という。日弁連の多重債務問題WGの座長として人間の弱さを見てきた人。これまでは競輪、競馬だったのが、カジノでさらに幅が広がると。見ているところが全然違う。話が噛み合わないのも道理だ。

私は従前よりカジノ問題に関心をいただき、ディベート敎育株式会社ウェブサイトで「ひとりディベート【事例】日本でカジノを解禁すべきか」で賛成と反対の両面から問題を分析してきました。

カジノ法案成立で状況が大きく変化しましたので、これから数回に渡り最新事情をまとめてみたいと考えております。

今回は、昨年成立したいわゆるカジノ法案とはどんな内容なのか、今後はどのように進んでいくのかについて考察してみたいと思います。

さて、成立したカジノ法案の正式名称は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」であり、IR推進法とも呼ばれます。

ここで、重要な概念はIRです。

では、IRはカジノを含む統合型リゾートとも言われますが、どういうものなのかを見てみましょう。

IR(統合リゾート)とは、どんな施設なのか
出典 東洋経済ONLINE 2014年07月02日
カジノを含む統合リゾートは、英語ではIntegrated Resorts(IR)と表記されます。IRはカジノのみならず、ホテル、劇場、パーク、ミュージアム、MICE施設などを一つの区域に含む統合施設です。
このMICEとは企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会、イベント(Exhibition/Event)の頭文字をとったものです。
IR施設全体のうち、カジノ部分は面積では5%未満に過ぎませんが、売上高では80%以上を稼ぎ出します。IRの収益メカニズムは、施設全体が集客し、カジノ部分が集中的に収益化、マネタイズする仕組みです。逆に言えば、カジノという強力な収益装置が存在するために、カジノ以外の施設(面積では95%以上)は、収支を必要以上に気にすることなく、十分にコストをかけて、最高のサービスの開発し、集客を拡大することだけに専念できます。

さて、今回成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」とは、そもそもどんな法律なのでしょうか?

出典 衆議院 第183回国会 議案の一覧 >議案本文情報一覧
 (基本理念)
第三条 特定複合観光施設区域の整備の推進は、地域の創意工夫及び民間の活力を生かした国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済の振興に寄与するとともに、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本として行われるものとする。
 (国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。
 (法制上の措置等)
第五条 政府は、次章の規定に基づき、特定複合観光施設区域の整備の推進を行うものとし、このために必要な措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。

ここから、(第三条)国は基本理念に則り「(第四条)特定複合観光施設区域の整備を推進する責務」があり、「(第五条)必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない」ことがわかります。

即ち、一見すると今回のカジノ法案成立で直ぐにカジノが認可され建設が始まるとの印象がありますが、実は今回のカジノ法案成立だけでは不十分で、1年以内に追加法律を作らなければならないのです。

そこで政府は次のような活動を開始しました。

出典 カジノIRジャパン 2017-01-21
政府は、施行から一年以内を目途に、IR実施法案を策定し、国会に提出する予定。
また、政府は、IR実施法案とは別に、ギャンブル依存症対策基本法案を策定し、2017年の通常国会で提出へ。(中略)
<IR実施法案の策定作業>
・1月6日、「IR区域整備推進本部」の準備室を内閣官房に設置
・3月には「IR区域整備推進本部」(本部長:安倍晋三・首相)が発足へ
・「IR区域整備推進本部」は、当初50名規模(以前の内閣官房の検討チームは約30名)
・ギャンブル依存症対策整備のため、厚生労働省などの職員が検討チームに加わる方向
・IR区域整備推進本部の事務局は、段階的に100名規模へ増強
・有識者で構成する整備推進会議を設置

これに呼応して野党の日本維新の会と民進党は次のような活動を開始しました。

出典 カジノIRジャパン 2017-01-21
各党:IR実施法案の議論・検討、ギャンブル依存症対策整備に向けた動き
日本維新の会
・与党(自民党・公明党)が2017年1月に開始するIR実施法案とその制度設計の議論に参加を検討
・野党が政策立案の段階から与党協議に関わるのは異例
・日本維新の会は、IR推進法案提出者として、IR実施法案に関する与党協議への関与を求めてきた
民進党
・12月21日、内閣部門会議を開催。政府からヒアリング
・ギャンブル依存症対策、IR実施法案の論点(刑法・賭博罪の違法性阻却、カジノ収益の使途など)をチェック
・ギャンブル依存症対策を盛り込んだ議員立法を検討
・ 1月24日、「次の内閣」で、長妻昭・元厚生労働大臣を座長とするカジノ検証プロジェクトチームの設置を決定

自民党と歩調を合わせてきた日本維新の会は当然ですが、絶対反対を表明している民進党もカジノ検証プロジェクトチームの設置をしております。

これはどう捉えたら良いのでしょうか?

IR推進活動を歴史的に見れば、2002年12月に自民党が 「国際観光産業としてのカジノを考える議員連盟」を結成したことに遡ります。

その後、2010年4月 超党派議連で「国際観光産業振興議員連盟」が発足し、2011年8月 同議連が、カジノを中心とした複合観光施設の国内整備に向けた議員立法(通称:IR推進法案、カジノ法案)を公表しているのです。

現在、国際観光産業振興議員連盟(IR議連)に参画している国会議員数は与野党の双方合計222名もいるのです。

これは、衆参両議院総数717名の31%にも及ぶのです。

出典 IR(総合型リゾート)研究会 国際観光産業振興議員連盟(IR議連)役員(平成27年3月27日現在)
自民党 148名
民主党 23名
維新の党 27名
公明党 9名
次世代の党 6名
日本を元気にする会 4名
生活の党と山本太郎となかまたち 2名
無所属 3名
合計 222名

IR議連には、民進党からも衆参合計で23名参画しているだけでなく、前原誠司氏を始めとする5名が副会長に名を連ねているのです。

この状況がカジノ法案を複雑しているのです。

総論として言えば、各党の立場としては賛成・反対はあるものの、党を超えて議員レベルで考えると、各党から多くの議員が支持していることがわかります。

今回は、カジノ法案成立にともない、今後の対応について考察してみました。

次回は、具体的にどこでカジノを含む統合型リゾート(IR)を設立しようとしているのか、そして予想される経済効果を探ってみましょう。

 

カジノ法案について賛成と反対から深く論じたひとりディベートは次から御覧ください。

日本でカジノを解禁すべきか

 

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