今年2月、若者を喫煙に誘導しているとして、世界保健機関(WHO)が、喫煙シーンのある映画やドラマを「R指定」(保護者同伴がなければ17歳未満は入場・鑑賞できない)に指定するよう勧告しました。

皆様はこれに賛成ですか?反対ですか?

煙草シーン映画にR指定勧告 「若者の喫煙助長」は本当か
出典 NEWSポストセブン 2016.02.16
 映画が未成年者の喫煙を助長している――。2月1日、WHO(世界保健機関)が出した「勧告」が波紋を広げている。
 WHOによれば、2014年に上映された米ハリウッド映画の44%に喫煙シーンが登場したほか、米国で喫煙を始めた青年の37%が、映画がきっかけだったとする調査結果もあるという。そこで、喫煙シーンのある映画について、「R指定」などの年齢制限を設けたり、放映前に“禁煙広告”を流したりする措置を取るよう各国に勧告したのだ。

ここで注意することがあります。それは日米で映画レーティングに違いがあることです。

即ち、アメリカの「R指定」は保護者同伴があれば17歳未満でも入場・鑑賞できますが、日本の「成人向け」は18歳未満の入場・鑑賞は一切禁止されているのです。

つまり、WHOの勧告は、必ずしも17歳未満(米国)或いは18歳未満(日本)の鑑賞を一切禁止すべきとしているわけではないのです。

さて、前回は喫煙シーンを含む映画を「R指定」することに反対側の意見を見てみました。

今回は、喫煙シーンを含む映画を「R指定」することに反対する意見に対して、賛成側の反ばくを検証します。

第1論点:日本では、映画の喫煙シーンがタバコを吸うきっかけではないという点について。

これは、否定側が引用した調査の統計的信頼性が低いからと考えられます。

始めに、喫煙シーンを映画で見ることでタバコ開始率が増加したのは、米国だけでなく、欧州6カ国(ドイツ、アイスランド、イタリア、オランダ、ポーランド、イギリス)でも同じ傾向だったのです(映画の喫煙シーンはタバコを吸う子どもを増やす 松崎道幸 日本禁煙学会理事)。

また、実際の各国の喫煙開始率の比率は、喫煙シーンを映画で見ることへの被爆が高いグループでは低いグループより、ドイツ、アイスランド、イギリスでは約4~5倍、イタリア、オランダ、ポーランドでは約3倍程度高かったことが分かりました(同上)。

即ち、これは様々な言語文化で異なる環境下の先進国においても同様の傾向が有ることを示していることがわかります。

第2論点:インターネットによる調査には偏りがあり、日本全体を母集団とする世論調査とはなり得ないのです(ウィキペディア 世論調査)。

何故ならば、インターネット調査では、統計的(サンプル数とランダム化)に不備があるからなのです。

始めに、各種の世論調査はどれも1500~2000人というサンプル数ですが、これは1億人の意見を調べようとすれば2000人の意見を調べたら十分という統計処理方法があるからなのです(Human Resource Inc. 統計のサンプル数は信憑性があるのか?)。

次に、世論調査のようなサンプル調査(標本調査といいます)では、サンプルをランダムに抽出することが大切で、マスコミの世論調査では、「層化二段無作為抽出法」がよく利用されます。これは、全国をいくつかのブロックに分け、それぞれのブロックで、市区町村を、都市規模や産業別就業人口構成比などによって一定数の層に分類し、まず、各ブロックの人口数の大きさに比例して、各層から無作為に調査地点を抽出する。次に、住民基本台帳をもとに、各調査地点ごとに、一定数のサンプルを無作為に抽出する。このようにすることで、ランダムなサンプルの抽出が可能となるのです(ニッセイ基礎研究所 標本調査はサンプル抽出が命−何人からアンケートをとればいいか?)。

インターネット調査では、こうしたランダム抽出ができていないので、世論調査の代替とは成り得ないのです。

第3論点:映画の喫煙シーンは表現の自由と、さほど関係がないのです。

例えば、シルベスター・スタローンの映画でたとえ喫煙シーンが印象的だったとします。

しかしながら、お金をもらうことでその映画でタバコを吸うシーンを入れたということであったら、その喫煙シーンは本当に必要であったかが疑問視されます。

実際、カリフォルニア大学が公開しているタバコ会社の内部文書によれば、シルベスター・スタローンが映画でB & W のタバコを吸うシーンを入れることの見返りにお金をもらっていたのです(シルベスター・スタローン とタバコマネー)。

これが、プロダクトプレイスメントの怖さなのです。

視聴者には自然と喫煙シーンが刷り込まれてしまうのですが、これは意図的なものなのです。

また、スタジオジブリ『風立ちぬ』で喫煙シーンが多く見られます。

実は、『風立ちぬ』のモデルと言われる堀越二郎氏は、ご子息によれば酒もタバコもやらなかったので、映画では事実を曲げて彼を喫煙者に仕立て上げ、「印象的な」喫煙シーンを映画に挿入したことになります。実は、宮崎駿監督はヘビースモーカーでタバコをこよなく愛しており、それは映画のウェブサイト内にあるプロダクションノートの項に 『空、飛行機、恋、たばこ…。宮崎監督が大好きなものがたくさん詰まった作品がここに完成した。』 とありますから、こうした多くの喫煙シーンは、多分に彼の作為の働いた結果という事になります(第 20 号:アニメ『風立ちぬ』の喫煙シーン論争から学ぶ)。

これを裏付けるように、同映画の鈴木敏夫プロデューサーが意図的にタバコシーンを入れ込んだと明確にその意図を説明しております。「昔はジブリにも愛煙家が多かったけれど、気づけばいまや彼と僕だけ。実は僕と宮崎駿は、そのことを恨んでいましてね。今度の映画では、全編タバコだらけです。何かあれば吸っています。いっぱい出てきますよ。」(映画にかける思い AEON CINEMA 鈴木敏夫株式会社スタジオジブリ プロデューサー)

なお、宮崎駿監督は、東日本大震災でタバコの「贈り物」をしたというほどの愛煙家なのです(気仙沼の漁師にタバコを!宮崎駿監督から被災地へ「意外な贈り物」)。

一方、映画評論家の小野寺系氏は、今回のような規制が演出においてプラスに作用する面もあるかもしれないという意見を示しております。その例として、ハリウッドには、性的なシーンに対してベッドシーンは描かない、過激なキスシーンを描かない“ヘイズ・コード”という規制がありましたが、結果的に面白い演出がいろいろと生まれたという意味では、プラスになった面は多少なりともあるでしょうとしています(「喫煙シーンのある映画」へのWHO勧告をどう捉えるか 小野寺系が映画史を踏まえつつ考察)。

第4論点:知る権利の侵害について。

そもそも、知る権利とは国民の国政に関する情報収集活動が国家権力によって妨げられた場合に使う概念なのです(三省堂 大辞林)。

また、現在の日本の映画レーティングは自主規制であり、これは知る権利の侵害ではありません。即ち、喫煙シーンも自主規制すれば問題がないのです。

この理由については、反対側が引用した、憲法問題に詳しい作花知志弁護士が「憲法は、原則として『国』と『国民』の関係を定めた法です。業界がレイティングを定めているからといって、未成年者は当然に『知る権利の侵害だ』と主張できるわけではない」と説明をしていることなのです(弁護士ドットコム2016年2月4日)。

以上、今回は喫煙シーンのある映画を「R指定」にすることに反対する意見に対して、賛成側の反ばくを見てみました。

次回は、賛成側の反ばくに対して、反対側の反ばくを見てみたいと思います。

なお、下記には全文が掲載されております。
WHOが喫煙シーンのある映画を「R指定」にすべきと勧告:賛成ですか?反対ですか?/

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