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「子どもの声騒がしい」「送迎の車不安」で保育所建設が中止の是非について

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「子どもの声騒がしい」「送迎の車不安」で保育所建設が中止の是非について

問題の背景

「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログをきっかけに待機児童問題に再度注目が集まるようになり、厚生労働省が待機児童の解消に向けた緊急対策を発表するなど、待機児童問題が社会問題になっております。

女性の就業率向上や共働き世帯の増加により保育ニーズは拡大しており、都市部を中心に待機児童の発生が大きな問題となっています。待機児童問題は、女性の就業の妨げの1つの要因であり、少子高齢化で労働力人口が減少している我が国にとって、待機児童の解消は喫緊の課題なのです(Mizuho Industry Focus 2014年10月22日)

その待機児童の解消に向け、政府は2015年11月に目標を「50万人」へと10万人増やして、受け入れ枠確保する目標を掲げました(毎日新聞2016年4月24日)。

しかしながら、保育所を開設しようとすると「子どもの声騒がしい」「送迎の車不安」として近隣住民の反対で中止に追い込まれるケースが増えているのです。

皆様は、「子どもの声騒がしい」「送迎の車不安」で保育所建設が中止される事態をどう捉えますか?

住民反対、断念11件 開設遅れ15件 12年度以降 自治体毎日新聞調査
毎日新聞2016年4月24日 東京朝刊
 近隣住民の反対などで保育所開設を断念した事例が2012年度以降、全国で少なくとも11件あったことが毎日新聞の調査で分かった。住民の要望を受け設計を変更するなどしたため開設が遅れたケースも15件あった。厚生労働省は待機児童解消に向け保育所などの整備を急いでおり、今後も同様の事例が出ることを懸念。各自治体に「早い段階から近隣住民に丁寧に説明し、途中経過も報告するなど理解を得られるよう努めてほしい」と求めている。調査は、昨年4月1日現在で待機児童が50人以上いる自治体と政令市、東京23区の27都道府県124市区町村を対象に実施し、全市区町村から回答を得た。

一方、地方自治体も努力を重ねておりますが、待機児童が増えているのが現状です。

例えば、待機児童数がもっとも厳しいと言われている世田谷区では、保育定員数を2011年から2016年で4460人増やしたにもかかわらず、認可保育園入園申込者数も2011年の4407人から、2016年の6439人と増加したため、待機児童が増えているというのです。

「子ども人口増」「認可園申し込み者増」を追う「待機児童対策」
出典 保坂展人世田谷区長 2016年03月22日
さて、待機児童数がもっとも厳しいと言われている世田谷区ですが、2011年に1万1265人だったか保育定員数を2016年で1万5925人まで4460人増やしてきました。その間、保育園の数も、198園から257園に増えています。一方で、認可保育園入園申込者数も2011年の4407人から、2016年の6439人と2032人(146%)という急激に増加し、保育園は新たに開園し保育定員も増えているのに、待機児童数は2012年786人、2013年884人、2014年1109人、2015年1182人と増えています。

「子どもの声騒がしい」「送迎の車不安」で住民の苦情を受けたり保育所建設が中止になった例

まず、東京都が都内62区市町村にアンケートをした所、子供の声をめぐり住民から苦情を受けたことがある自治体は計全体の約7割を占めたというのです。

子供の声は「騒音」か…脅迫、訴訟、保育所にドクロの看板まで
出典 産経ニュース2014.10.18
保育所や学校、公園で遊ぶ子供の声をめぐり、近隣トラブルに発展する例が相次いでいる。東京都が今年3~9月、都内62区市町村にアンケートをした結果、平成20年度以降、住民から苦情を受けたことがある自治体は計42団体で、全体の約7割を占めた。
 夜勤明けで眠れない▽定年後を静かにすごそうと思ったのに台無しだ-といった意見が多いといい、子供の声のほか、太鼓をたたく音や野球ボールの打音など多岐にわたる。

例えば、「夢工房池田山保育所に反対する会」の代表は、五反田駅近くの池田山は品川区のまちづくり整備方針において「高台の閑静な住宅地としての環境が守られている」地区だとし、「住民エゴだという人もいるが、私たちはこの閑静な環境のために高額な固定資産税や相続税を納めている」と保育所建設に反対しております。

出典 AERA編集部 2014年4月21日号
住民の「夢工房池田山保育所に反対する会」は今年2月、約1700人分の署名と要望書を都と区に提出した。朝夕に送迎の自転車が行き交うと、ペットを散歩させる高齢者が危険にさらされる。夜遅くまで開園すれば照明や騒音で睡眠を妨げられる。そもそも池田山は高齢者が多いが乳幼児は少なく、保育園のニーズはない──。
「反対する会」の代表、デザイン会社社長の船曳鴻紅さん(66)はこう話す。
「住民エゴだという人もいるが、私たちはこの閑静な環境のために高額な固定資産税や相続税を納めている。反対者の3分の2は女性です。子育ての苦労を想像できるし応援したいからこそ、なぜここに保育園をつくるのか理解に苦しみます。もしも災害が起きたら高齢者の避難に手一杯で、子どもまで助けられない。無責任に受け入れることはできません」
「保育所ができたら、朝夕の毎日2回、大勢の保護者が子どもの送迎のためにやってくる。静かな環境が騒がしくなる」として、近隣住民は保育所建設に反対する意見を述べております。

東京都杉並区の閑静な住宅街でも、子どもの送迎で静かな環境が騒がしくなるとして近隣住民の強い反対で認可保育所建設計画は白紙になったのです。

保育所新設、立ち往生 「子どもの声、騒がしい」「送迎の車、不安」 環境守りたい近隣住民
出典 毎日新聞2016年4月24日
 幅4メートルもない道に面した約400平方メートルの敷地。東京都杉並区の閑静な住宅街に、昨年4月開設の予定で民間の認可保育所の建設が計画されていた。定員は60人。
 しかし、近隣住民の強い反対で計画は白紙に。空き地になったままの敷地の周辺には今も「開設反対」ののぼりが立つ。
 「2年前にアパートが取り壊されたと思ったら、保育所の開設を知らせる紙が突然近隣に配布された」。近くに住む女性が語る。80代の男性は「保育所ができたら、朝夕の毎日2回、大勢の保護者が子どもの送迎のためにやってくる。静かな環境が騒がしくなる」。別の男性は「敷地前の道路は私道。事故が起きたら誰が管理責任をとるのか」と反対した理由を語った

また、遊ぶ子供の声をめぐり近隣トラブルに発展してついには逮捕者も出ました。

子供の声は「騒音」か…脅迫、訴訟、保育所にドクロの看板まで
出典 産経ニュース2014.10.18
ついには逮捕者も出た。東京都国分寺市では今月1日、認可保育所近くの路上で、園児を迎えに来た保護者に手斧を見せ、地面に数回振り下ろすなどして脅迫したとして、近所の無職の男(43)が暴力行為処罰法違反の疑いで逮捕された。
 国分寺市によると、男は犯行の前日、同市保育課に電話をかけ、「園児の声がうるさい」「帰り道に近所のアパートに入り込んでいた」「対応しないなら、園児の首を切るぞ」などと職員を脅した。
 同市には約5年前から数回にわたり、男から苦情の電話があったといい、犯行当日は保護者に対し「近所から苦情があったので、帰り道にうるさくしないように」というお知らせを配布したばかりだった。

一方、東京都練馬区の認可保育所では、騒音の差し止めと慰謝料などを求め東京地裁に提訴されているのです。

子供の声は「騒音」か…脅迫、訴訟、保育所にドクロの看板まで
出典 産経ニュース2014.10.18
 東京都練馬区の認可保育所では24年8月、一部住民が「平穏な日常生活を害された」として運営会社を相手取り、騒音の差し止めと慰謝料などを求め東京地裁に提訴。訴状では「騒音は常に45デシベルを超え、頻繁に75デシベルを超える」と主張しており、現在も係争中という。
 保育所を運営する「日本保育サービス」(本社・名古屋市)の山口洋代表は「周辺には配慮している」と説明する。高さ約3メートルの透明な防音壁を約1千万円かけて設置し、窓は二重サッシに。
 極めつきは、園庭で子供を遊ばせる時間を各クラス40分に制限。0~5歳児の140人が一度に園庭に出て騒がしくならないよう、ローテーション式にして1日2時間半から3時間で外遊びが終わるようにした。
 1日に5、6回も苦情電話があるなど、クレームが激しかった時期には1年ほど外遊びを禁止したが、「今度は保護者から『使わせてほしい』と要望が出た」(山口代表)。「しまいには先方が、『うるさくないけど遊ばせるな』と言いだし、こっちから『出るところに出てくれ』とお願いした」(同)という。

これらの訴訟の根拠となっているのが、東京都が定める「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」なのです。

子供の声は「騒音」か…脅迫、訴訟、保育所にドクロの看板まで
出典 産経ニュース2014.10.18
これらの訴訟の根拠となっているのが、東京都が定める「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」だ。
 同条例では、騒音について「何人も規制基準を超える騒音を発生させてはならない」と規定。住宅街では日中に45~50デシベル以上、夜間・早朝は40~45デシベル以上の騒音を敷地外に漏らすことを禁じている。
 50デシベルは人が会話をする程度の音。環境省の所管する騒音規制法や、他道府県の条例では規制対象を工場や事業所、建設現場などに限っているが、「都条例では、昔から『何人も』と規定してしまっているために子供も例外ではなくなっている」(都担当者)という。

因みに、前出の訴訟になった東京都練馬区の住宅地(一般地域)の騒音の環境基準は6-22 時に於いて55デシベル以下となっております。

練馬区のねりまのかんきょう(平成26年度報告)によると、騒音レベルの意味合いは次の通りです。

出典 ねりまのかんきょう(平成26年度報告)1章環境にやさしいまちをつくる 
50 デシベル:静かな事務室、エアコン室外機
60 デシベル:普通の会話、チャイム
70 デシベル:掃除機、騒がしい街頭
80 デシベル:地下鉄の車内、ピアノの音

「頻繁に75デシベルを超える」とすれば、掃除機、騒がしい街頭や地下鉄の車内同等の騒音に相当することになります。

実例で考えると、確かに騒音といってもおかしくはないレベルのように思えます。

「未来の声なのだから容認しろ」というのは、たしかに残酷だ」とするのが、コラムニストの小田嶋隆です。

出典 小田嶋隆 2014年11月発売の『GQ JAPAN』1月号に掲載
一方、子供の声を「騒音」だと主張している人々の声に耳を傾けてみると、これはこれで頷ける点が多い。「子供たちの声」と、可愛らしいタグで総称してしまうとその「声」の暴力性に気づきにくいかもしれないが、実際に保育園の間近で暮らしている人間にとって、子供たちの声は、単なる「声」ではない。それは、歌の時間に全員が唱和する狂ったハーモニーであり、スピーカーを通して大音量で繰り返される園内放送の反復なのだ。運動会準備の時期ともなれば、ダンス音楽と嬌声がひとつの音塊となって窓を震わせる。これを午前中いっぱい聴くことになる夜勤明けの労働者に「未来の声なのだから容認しろ」というのは、たしかに残酷だ。

こうした状況が進展しない背景の一つに、「子どもは自分の家で育てるもの」とする考えがどこか根底にあるのではないか、と思わざるを得ません。

作家の曽野綾子さんの「出産したら女性は会社をお辞めなさい」という大変物議を醸しだした発言を覚えている方も多いのではないでしょうか?

曽野さん発言と「甘えてない!」騒動で考えた“育休問題”の深層
出典 日経ビジネス 河合薫の新・リーダー術 2013年10月8日
「出産したら女性は会社をお辞めなさい」―─。
 極論と言えるこの発言を、作家の曽野綾子さんがしたのは1カ月ほど前のこと。ご存じの方も多いかと思いますが、物議を醸した記事なので、できるだけ原文で紹介する。
物議を醸した曽野綾子さんの発言の要旨
 「赤ちゃんが生まれたら、仕事を続けるのは無理。赤ちゃんが熱を出せば、『早退させてください』となるのは無理もない。でも、そのたびに「どうぞ、急いで帰りなさい」と快く送り出せる会社ばかりではない。だから女性は赤ちゃんが生まれたら退職し、子どもが大きくなったら、また再就職できる道を確保すればいい」
 「会社に迷惑をかけてまで、なぜ女性は会社を辞めたがらないのか。共働きをしないと生活が苦しくなるからだろうけど、私たちが子育てをした頃は、みんな貧乏暮らしだった。保育所の待機児童の問題も異常。子どもは、自分の家で育てるもの。だから昔は、みんな親と同居していた。いまの若い人は親と同居したくないし、収入が減るのも嫌だから、保育所に子どもを預けて働くのが当然という」
 「彼女たちは会社に産休制度を要求なさる。しかし、あれは会社にしてみれば、本当に迷惑千万な制度。辞めてしまって、ずっといなくなるなら新しい人材を補填すれば済むけれど、そういうわけにもいかない。結局、産休で抜けた人の仕事を職場のみんなでやりくりしてカバーする。そういう制度を利用する女性は自分本位で、自分の行動がどれほど他者に迷惑をかけているか気付かない人」

実際、東京都杉並区議による、認可保育所に入れなかった母親の世を恨むかのような態度はどこかおかしいとの発言も有りました。

出典 朝日デジタル 待機児童問題とは
 2013年2月、東京都杉並区で、認可保育所に入れなかった母親たちが区に異議を申し立てた。これについて杉並区議が「(母親たちの)世を恨むかのような態度はどこかおかしい。『お願いです。私たちの子育てをどうか手伝って下さい』、これが親のマナーでは」とブログで発信、炎上した。異議申し立てはほかの自治体にも広がっている。

「子どもの声騒がしい」「送迎の車不安」とする問題を乗り越えた例

世田谷区に11年にできた認可保育園ではきちんと意見を伝え合えたことで対立を乗り越えたといいます。

子どもの声は騒音? 保育園、訴訟になったケースも
出典 朝日デジタル2016年4月14日
 対立は乗り越えられるのか。世田谷区に11年にできた認可保育園をめぐっては、開設前に約1年かけて計10回以上の住民説明会を開いた。当初は怒号が飛び交うほど住民の反対は強かったが、園側は「子どもは地域で育つ。子育てを応援してほしい」と粘り強く説得。住民の不安にも応じ、「自動車の送迎は禁止」「声が漏れにくいよう、窓は二重ガラスに」といった対策も取った。開園後は、住民がお散歩ルートを提案し、園児に声をかけてくれるまでになった。
 当時園長だった女性(68)は「きちんと意見を伝え合えたことが大きかった。この問題の解決にハウツーはなく相手に誠実にこたえていくしかない」。住民側の代表を務めた梅津政之輔さん(85)も「住民の価値観は様々。普段から地域のコミュニティーをつくり、問題が起きたらしっかり話し合い、お互い歩み寄ることが大切」と話す。
 関西大の山縣(やまがた)文治教授(子ども家庭福祉学)は保育園への反対の背景には、自分の生活を大切にする個人志向の高まりに加え、待機児童の増加で、かつては考えられなかった道の狭い場所にも保育園ができるようになって自治体や運営側に説明が求められるようになったことがあるとみる。「自治体や保育園と地域住民が対立関係に陥らないよう、丁寧に話し合いを進める必要がある」と指摘する。

また、粘り強く話し合いを続けることで、地域住民と保育園との話し合いの道筋をつけた東京・世田谷区の例もあるのです。

出典 NHKクローズアップ現代 2014年10月29日(水)放送
戦前から住宅地として長い歴史を刻む、東京・世田谷区の太子堂地区。
この住宅が密集する地域に3年前、新しく保育園が作られました。(中略)
しかし実はこの保育園でも、5年前に建設を計画した時、地域住民の反対の声に直面しました。
当時、激しく反対していた1人、吉田昌史さんです。
「トップダウンでくるのはいかがなものかと思った。
直近(近所)の人からすれば、騒音の問題にうるさくなっていたり、自転車の往来を心配しなきゃいけない。
お年寄りが多い地域なのでね。」
議論がこう着する中、区と住民に対して、粘り強く話し合いを続けることを呼びかけた人がいます。
長年、地域のまちづくりの中心メンバーだった梅津政之輔さんです。(中略)
まちづくり協議会 梅津政之輔さん
「子どもの声のしない町には未来がないというのが僕の心情です。
子どもは声を出すことで成長していくんじゃないですか。
声がうるさいのは、自分たちの将来にも関係している。」
地域のためにも、保育園の建設問題を議論するべきだと考えていた梅津さん。
話し合いに際して、区には計画の詳しい説明や住民たちの要望をできるかぎり聞いてほしいと求めました。
一方、住民たちには不安や不信感を素直にぶつけることを提案しました。
話し合いを続けること1年。
回数を重ねるうちに合意点が見い出されていきます。
子どもたちの声がうるさいという意見に対しては、当初、道路に面していた園庭の位置を変え、声が外に直接響かないように変更しました。
日当たりが悪くなると訴える住民のためには、敷地を掘り下げ建物の高さを抑えることで、日当たりの確保にも努めました。
こうした変更点は、実に7か所にも及びました。
住民たちは、自分たちの意見に耳を傾ける姿勢に好感を持ち始めたといいます。
さらに住民たちの心を動かしたのは、話し合いの場に建設予定の保育園の園長や保育士が率先して参加していたことでした。
園長の栗田怜子さんです。
栗田さんは保育園を建てたいという思いだけでなく、建てたあとに地域の仲間として迎え入れてほしいと訴えるため、参加を希望したといいます。
「いっぱい子どもを遊ばせたいし、お散歩に出て行ったら近隣の人に『今日も元気だね』とか『どこまで行くの』とか、そういう声をかけてもらって、地域の中でともに生きる子どもたち。
絶対いい保育園にしたいので、近隣のあたたかい応援も欲しいのですってお願いして。」
子どもたちは地域の中でこそ育まれると訴え続けた栗田さん。
その真剣さに、吉田さんたち住民も個人的な反対意見を言うのではなく、地域の将来像について話し合うようになっていったといいます。
「地域的には(保育園を)持ってこられちゃ困るっていう意見は当然あるけど、もっと広域的には(保育園が)なきゃいけないという考え方が当然あるので、感情論だけで最初から最後まで(反対)っていうようなことを通しても、その意見は聞き入れないよね、普通。」

また、「住民の価値観は様々。普段から地域のコミュニティーをつくり、問題が起きたらしっかり話し合い、お互い歩み寄ることが大切」と歩み寄りで解決されるケースも有ります。

子どもの声は騒音? 保育園、訴訟になったケースも
出典 朝日デジタル2016年4月14日
 対立は乗り越えられるのか。世田谷区に11年にできた認可保育園をめぐっては、開設前に約1年かけて計10回以上の住民説明会を開いた。当初は怒号が飛び交うほど住民の反対は強かったが、園側は「子どもは地域で育つ。子育てを応援してほしい」と粘り強く説得。住民の不安にも応じ、「自動車の送迎は禁止」「声が漏れにくいよう、窓は二重ガラスに」といった対策も取った。開園後は、住民がお散歩ルートを提案し、園児に声をかけてくれるまでになった。
 当時園長だった女性(68)は「きちんと意見を伝え合えたことが大きかった。この問題の解決にハウツーはなく相手に誠実にこたえていくしかない」。住民側の代表を務めた梅津政之輔さん(85)も「住民の価値観は様々。普段から地域のコミュニティーをつくり、問題が起きたらしっかり話し合い、お互い歩み寄ることが大切」と話す。

こうした「子供の声」騒音問題の解決のヒントが、作花知志弁護士のブログにはあると思うのです。

騒音としていたピアノなのですが、有名ピアニストが引いていたとわかった途端、騒音ではなくなったというのです。

出典 弁護士作花知志のブログ ドイツ・子どもの騒音への特権付与法 2011-06-15
このドイツの法律についての記事を読んだ時,私は,高校時代の英語の教科書に書かれていた,以下のような話を思い出しました。
あるホテルの部屋に夫婦が滞在していたところ,隣の部屋からピアノの音が聞こえてきたそうです。そしてその音は,止みそうにありません。
夫婦はホテルのフロントに行き,「隣の部屋からピアノの音が聞こえてうるさい。隣の部屋に泊まっている人に,ピアノの演奏を止めるように言ってほしい。」と苦情を言ったそうです。
するとフロントの係の方が,「実はあの部屋には,著名なピアニストの方が現在宿泊されているのです。近々行われるコンサートの練習のために,特別に部屋にピアノを持ち込まれて,熱心にコンサートで弾く予定の曲を練習されているのです。」と言ったそうです。
その話を聞いた夫婦は,「そうだったのか」と言って,すぐに自分たちの部屋に戻り,その後は隣から聞こえてくるピアノの音色を楽しまれた,ということでした。

この話を裏付けるのが、八戸工業大大学院の橋本典久教授です。うるさいと思うかどうかは音の大きさだけではなく、相手との人間関係も影響するというのです。

子どもの声は騒音? 保育園、訴訟になったケースも
出典 朝日デジタル2016年4月14日
 騒音問題に詳しい八戸工業大大学院の橋本典久教授(音環境工学)は「『子どもの声は全て我慢しろ』という考え方も、『工場の騒音と同じように規制しろ』という考え方も、極端過ぎる」と話す。うるさいと思うかどうかは音の大きさだけではなく、相手との人間関係も影響するという。「遮音壁などの防音対策だけではなく、『うるさく感じない』関係づくりが大切」と指摘する。

つまり、単純にうるさい、うるさくないというのではなく、お互いが向き合って理解し合える関係を気づきあげることが保育所開設問題の解決に繋がるのではないでしょうか?

待機児童問題に関連して、騒音問題や住環境問題で推し量れない面

待機児童問題には、騒音問題や住環境問題で推し量れない面があります。

始めに、待機児童問題は国が発表する以上に深刻なのです。

即ち、潜在的な待機児童は公表数の2倍以上存在するのです。

何故ならば、希望する保育所以外では自宅や勤務先から遠くて入所を断念したり、無認可の保育所に入所できても費用の安い認可保育所への入所を希望する人などは、待機児童としてカウントしてないのです。

実際、横浜市では待機児童は7人としながら、実質的な待機児童ともいえる「保留児童」は昨年より583人増の3117人に膨らんでいるのです。

横浜市 「待機児童は7人」も…「保留」は583人増
毎日新聞2016年4月27日 
横浜市は26日、認可保育所に入れない「待機児童」(4月1日時点)は7人だったと発表した。ただ、7人には育児休業を延長したり、認可外の横浜保育室を利用したりしている児童は含まれない。こうした潜在的な待機児童を含めた実質的な待機児童ともいえる「保留児童」は昨年より583人増の3117人に膨らんだ。保育所利用申請者数は過去最多の6万1873人。市は定員増を図っているが、利用申請の増加に追いつかないのが現状だ。
 保留児童は近年右肩上がりで増加。例年0〜2歳の低年齢児が大半を占め、今年も1歳児1713人(55.0%)▽2歳児608人(19.5%)▽0歳児445人(14.3%)−−で全体の約9割に上る。区ごとの内訳では、港北▽神奈川▽鶴見−−の市北部3区が特に多い。

厚労省も潜在待機児童は国定義の2倍以上と認めております。

潜在待機児童5万人 厚労相明かす 国定義の2倍以上
出典 東京新聞 2016年3月19日
 塩崎恭久厚生労働相は十八日の衆院厚生労働委員会で、希望する保育所に入れないのに待機児童とみなされていない子どもの数が、少なくとも約四万九千人に上る可能性を初めて明らかにした。厚労省は待機児童数を二万三千百六十七人(二〇一五年四月時点)と公表してきたが、潜在的な待機児童がさらに二倍以上存在することになる。
 厚労省は、原則として認可保育所に入れなくても認可外の保育所に入所できる場合、待機児童とカウントしない。(中略)
 これらのケースでは、希望する保育所以外では自宅や勤務先から遠くて入所を断念したり、無認可の保育所に入所できても費用の安い認可保育所への入所を希望する人などが多いと指摘される。本来は待機児童に含めるべきだとの意見が出ている。

はっきりとした待機児童の数がわからなければ、効果的な対策は打てないとするのは、NPO法人社会保障経済研究所代表の石川和男氏です。

『保育所は増加・待機児童も増加』という 怪奇現象の理由 〜 政府にとって好都合な数字ではダメ
出典 The Huffington Post石川和男 NPO法人社会保障経済研究所代表2015年09月30日
別の拙稿などで私はこれまでも何度も提起しているが、待機児童の数え方を最大限見積もるような算出方法を確立しないと、待機児童対策はいつまで経ってもニーズを満たさず、有効なものにはならないだろう。
私が複数の方法で概算出しただけでも、潜在的な待機児童数は100万~300万人台に上る。
待機児童解消加速化プランが順調に進みつつあると見られるのに、なぜか待機児童数は増えている。それは、待機児童の数え方が不的確だからである。保育予算が非常に不足しているので『真の待機児童数』を出したくないというのは、全く理由にならない。

次に、認可保育所と待機児童の問題で最大の問題は、恐らく大声で騒ぐことの少ないであろう、乳幼児の問題だとの指摘を紹介します。

経済評論家の渡邉哲也氏は、乳幼児を受け入れるには3歳児に比べ3~7倍の保育士を必要とするからだと、その理由を説明しております。

待機児童問題を一時的なブームや選挙の道具にしてはいけない
出典 iRONNA 渡邉哲也(経済評論家)
また、認可保育所と待機児童の問題で最大の問題は乳幼児の問題である。
 認可保育所では、0歳児:保育士1人につき子ども3人、1・2歳児:保育士1人につき子ども6人、3歳児:保育士1人につき子ども20人、4・5歳児:保育士1人につき子ども30人という規定があり、乳幼児を受け入れるにはたくさんの保育士を必要とする。そのため、0−1・2歳児の受け入れ可能な保育所は少ないのである。また、0−1、2歳児の受け入れを拡大しようとすれば、保育士の人員の問題から逆に3歳児以上の受け入れが不可能になってしまう。

確かに、待機児童問題は低年齢児が全体の85.9%を占めております。また、全待機児童の 73.7%が首都圏と近畿圏の都市部とその他の政令指定都市・中核市に集中しているのです。

出典 厚生労働省 「保育所等関連状況取りまとめ(平成 27 年4月1日)」
年齢区分別待機児童数
低年齢児が全体の85.9%を占める。
そのうち、特に1・2歳児 (16,636人(71.8%))が多い。 都市部の待機児童として、首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)、近畿圏(京
都・大阪・兵庫)の7都府県(政令指定都市・中核市含む)とその他の政令指
定都市・中核市の合計は17,083人(前年より337人増)で、全待機児童の 73.7%
(前年から4.7ポイント減)を占める。

具体例として、世田谷区では待機児童が0歳・1歳・2歳に集中している反面4・5歳が定員割れしているというのです。

「子ども人口増」「認可園申し込み者増」を追う「待機児童対策」
出典 保坂展人世田谷区長 2016年03月22日
また、待機児童が0歳・1歳・2歳に集中していることも見逃せません。2015年4月1日現在の1182人の待機児童の内訳は、0歳児434人、1歳児537人、2歳児156人、3歳児53人、4歳児2人、5歳児0人となっています。新設される認可保育園は、0歳から3歳までは定員通りに入園しますが、4歳・5歳はどこも開園時は定員割れしている状況です。したがって、厳しい待機児童状況の中で保育定員を1250人拡大しても、4・5歳が定員割れしていることから、入園する子どもの数は、定員をかなり下回ることになります。そこで、0歳・1歳・2歳を対象とした保育定員を拡充することが求められるわけですが、子ども・子育て新制度においては、認可保育園の運営に比べて低年齢児を対象とする小規模保育等の整備・運営補助条件が厳しいために、十分な整備数が確保できない状況になっています。

世界に目を向けると、新たな視点で解決策が考えられます。

始めに紹介するのが、英国やフランスの事例から、日本でも0~2歳の低年齢児の保育には、認定保育ママ制度の拡充で対応できるという考えがあります。

待機児童問題解決に向けて~おうち保育園の挑戦~
出典 首相官邸待機児童ゼロ特命チーム 配付資料 NPO法人フローレンス代表 駒崎弘樹
~待機児童問題の特徴~(中略)
待機児童問題は都市部のかつ低年齢児
海外にヒントはないのか?
„ 英:チャイルドマインダー7万5000人(こども22.5万人相当)が全英で活動
„ 仏:保育所で預かるこどもの数が13万人。認定保育ママが預かるこどもの数が50万人と圧倒的に利用されている
„ 保育需要の70%が認定保育ママによって担われている
„ 認定保育ママ数34万人(日本は07年度で993人)

ここで保育ママとは、主に3歳未満の子どもを家庭で預かる保育者で、次のような制度があります。自宅を活用できれば、大きな保育施設を作る必要も無いのです。

保育ママ
出典 知恵蔵2015の解説
共働きや1人親家庭などの事情によって日中保育できない保護者に代わって、主に3歳未満の子どもを家庭で預かる保育者、あるいは保育施設の総称。
保育ママが1人で預かることのできる子どもの数は最大3人で、補助者2人をつけると最大5人までとなる。保育料やサービスの内容などの詳細は市区町村によって異なるが、自宅などの保育の場を提供できることが必須条件となっている。(中略)
補助事業スタート当初は、「保育ママ」の要件が、保育士か看護師の資格を持っていることという厳しいものだったため、多くの市区町村は国家補助金を利用できなかった。これが保育ママ普及の壁となり、厚労省が想定した利用者数2500人に対し、18年度の保育ママは全国105人、利用した子どもは319人にとどまった。
法制化後は、有資格者に加えて、一定の研修を受け市区町村から認定された育児経験者も保育ママとなれるようになった。現在の保育ママ数は全国に1140人で、昨年度の利用者は2588人。厚労省としては14年までに利用者数を1万9千人に増やす目標を掲げている。

さらに、日本の常識とは裏腹に、先進国における女性の就業率が高い国は合計特殊出生率も高いという傾向があること、そして、その就業を支える保育所を短期間で実現するにあたって、株式会社が大きな役割を果たしていることがわかりました。

待機児童解消とともに拡大が期待される保育分野
出典 Mizuho Industry Focus 2014 年 10 月 22 日
【図表 7】は、先進国における女性の就業率と合計特殊出生率の関係を示したものであるが、女性の就業率が高い国ほど合計特殊出生率が高い傾向にあることがわかる。
1980 年頃までの先進国では、女性の就業率が高いほど出生率が低いという関係であったが、その後逆転したといわれている。これは、先進国において経済発展とともに女性の社会進出が進んだことに伴い、女性が家庭で育児を担えなくなったため出生率が低下したが、その後、両立支援制度(【図表 8】)の整備が進んだ国では、仕事と出産・育児の両立が可能となり、出生率の低下に歯止めがかかったことによるものである。女性の就業率が向上することで、少子化に歯止めをかけることが期待される。
これらの国々では、保育所の整備も積極的に行われている。その際、営利企業を参入させることにより保育所の量的拡大を図った国は多い。
スウェーデンでは、現在でも公立保育所が中心だが、量的拡大や保育の多様化の観点から民営化を進め、1992 年に営利企業の保育所にも公的な補助金を出す制度が導入されたことで、株式会社を含む私立保育所数は増加、利用者も増加している。
また、オランダでは、2005 年施行の保育法により、保育に関する公的な補助が、施設給付から個人給付に変わったことにより、近年営利企業の施設が急増している。2003 年から 2008 年の 5 年間で、保育所は 1,200 カ所から1,800 カ所以上に増加した。
一方、イギリスでは民間によってサービスが提供されない場合に限って自治体が保育を提供することになっている。1980 年代から 1990 年代の 10 年間で、保育所の定員は 10 万人から 30 万人と、3 倍以上に増加したが、これも営利企業によるところが大きい。
このように、諸外国では短期間で保育の量的な拡大を実現するにあたって、株式会社が大きな役割を果たしていることが分かる。

日本でも株式会社を推進してわずか3年で待機児童問題ゼロ目標を達成したのが横浜市です。

これじゃ待機児童ゼロなんて実現するわけがない!規制改革会議で見えた国民より社会福祉法人が大事な厚労官僚のホンネ
出典 現代ビジネス 長谷川幸洋「ニュースの深層」2013年05月24日
まず、横浜はなぜ待機児童ゼロを達成できたのか。勝利の鍵を握ったのは、保育所事業に対する株式会社の参入促進である。
横浜は10年には全国で最多の1552人に上る待機児童を抱えていた。そこから09年8月に就任したばかりの林文子市長の大号令で待機児童問題に取り組み、わずか3年でゼロ目標を達成した。
横浜市の認可保育所は03年時点で全267施設中、株式会社が設立したのは、わずか2つしかなかった。だが、13年には579のうち142が株式会社の運営になっている)。全体の数も増えているが、株式会社の伸びが著しい。

しかしながら、日本全体としては株式会社による運営は 2013 年 4 月時点で全体の約 2%にすぎず、株式会社にも施設整備費を補助するなどの対応が望まれます。

出典 同上
2000 年以降、私立の認可保育所は増加傾向となっているが、株式会社による
運営は 2013 年 4 月時点で 474 施設と全体の約 2%にすぎない(【図表 18】)。
要因としては、認可する自治体が撤退リスクや保育の質が低下することなどを
懸念して株式会社の参入を認めなかったことが大きい。その背景には、国の
補助金において、株式会社と社会福祉法人に差が設けられていることがある。
社会福祉法人については、施設整備費の 4 分の 3 が国・都道府県により補助
され、残りの 4 分の 1 についても独立行政法人福祉医療機構からの融資が受
けられる。一方、株式会社については施設整備費の補助はなく、運営費のみ
の補助となっている。このため、自治体としては国の補助金が少ない株式会
社を認可すると、保育の質が低下するとの懸念が生じる。

また、慶應義塾大学大学院教授である岸 博幸氏は、待機児童問題が緊急対策でも解決しないのは、保育サービスの価格を国が定めている為、地方自治体の創意工夫の余地が少ないのが問題と指摘をしています。

待機児童問題が緊急対策でも解決しない理由
出典 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授] 2016年4月1日
保育園の収入は公定価格で決められていた
 また、現状では、保育サービスの公定価格(保育園に通常要する費用の額:園児一人当たりの費用×人数)は国が定めています。この公定価格から利用者負担を差し引いた額が、国や自治体から補助金で賄われるのです。
 しかし、国が保育サービスの公定価格を定めているということは、保育園の収入の上限が決められていることを意味するので、自治体や保育園の側が保育士の給与を上げて人材を確保しようと思っても、その裁量はほとんどないと言わざるを得ません。
 これはすごくおかしなことです。例えば、地方創生で地方移住ブームが起きていますが、地方の自治体ではファミリー世帯の移住を誘致すべく、出産や医療費など子ども関連の補助制度を充実させているところが増えています。ある意味で、自治体間での社会保障サービス競争が始まっていると言えるのです。
 その一方で、待機児童問題は基本的には大都市の問題ですので、都市の自治体が将来の人口減少を睨んで近隣自治体との社会保障サービス競争に勝とうと思ったら、保育サービスを充実させるのが不可欠であり早道です。でも、保育サービスの公定価格が国によって決められているため、それができないというのはおかしくないでしょうか。


以上、今回は待機児童問題を、騒音問題や住環境問題以外の側面から問題とその解決策について考えてみました。

皆様は、待機児童問題をどのようにお考えですか?

なお、行政に携わる地方自治体の方々と住民側として社会行政問題に関わる方々に対して、懸案問題に対して賛成と反対の両面から検討することで、問題の本質を掴み、内因性を理解することで、合理的で本質的な解決策を見出していくことを目指す、ディベート教室をご提案致します。

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